最低賃金改定と特定技能2026|雇用条件書と申請タイミングへの影響

最低賃金改定と特定技能2026|雇用条件書と申請タイミングへの影響
受入企業・登録支援機関向け 2026年7月28日 目安答申

2026年10月の最低賃金改定と特定技能
雇用条件書・更新申請・届出に、どこまで影響するか

2026年度の最低賃金の改定目安が答申されました。目安どおりなら全国加重平均は1,176円になります。特定技能では、賃金の改定が入管手続にも波及します。いま雇用している人、これから申請する人、更新を控えている人で、対応が変わります。

公開日:2026年8月1日 カテゴリ:特定技能/労務 執筆:行政書士 鹿間英樹

今の段階で確定しているのは「目安」だけです。都道府県ごとの金額と発効日は、これから決まります。それでも今から動くべき理由があります。特定技能では、賃金を変えれば雇用条件書を作り直すことになり、届出も発生するからです。10月に入ってから慌てると、更新申請と重なります。

54〜56円ランク別の引上げ額の目安
1,176円目安どおりの場合の全国加重平均
10月以降例年の発効時期(都道府県ごと)
執筆:行政書士 鹿間英樹(行政書士しかま事務所・東京都行政書士会新宿支部/登録番号 第24080583号)/特定技能・技術・人文知識・国際業務を中心に累計500件超の在留申請に対応

この記事の結論

賃金を上げる話ではなく、
書類を作り直す話として考えてください。

最低賃金の改定そのものは、日本人従業員と同じ対応で足ります。特定技能で違うのはその先です。賃金を変更すれば雇用条件書の内容が変わり、届出の対象になります。さらに、改定をまたぐ時期に更新申請を出す場合は、どの金額で雇用条件書を作るかという判断が要ります。そして、最低賃金を上回っていても、日本人と同等以上という要件は別に満たさなければなりません。

まだ「目安」の段階です。確定額は都道府県ごとにこれから決まります

2026年7月28日の答申で示されたのは、各都道府県の引上げ額の目安です。今後、各地方最低賃金審議会での調査審議を経て、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。発効日も都道府県ごとに異なります。自社に適用される金額と発効日は、所在地を管轄する労働局の公表をご確認ください。

1. 今どこまで決まったのか

2026年7月28日、第75回中央最低賃金審議会で今年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申が取りまとめられ、厚生労働省から公表されました。

ランク引上げ額の目安対象
Aランク54円6都府県
Bランク56円28道府県
Cランク56円13県

仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の全国加重平均は1,176円、上昇額は55円(昨年度は66円)、引上げ率は4.9%とされています。都道府県の経済実態に応じて全都道府県をA・B・Cの3ランクに分け、引上げ額の目安が提示されています。

今年は地方の引上げ額のほうが大きくなっています

Aランク(都市部)が54円、B・Cランクが56円と、地方の引上げ額が都市部を上回る設定になりました。地方で特定技能外国人を受け入れている企業ほど、影響が大きくなります。地方は現在の最低賃金額自体が低いため、引上げ「率」でみるとさらに差が開きます。

2. 特定技能で影響が出る3つの場面

1

いま雇用している人

発効日以降、改定後の最低賃金額を下回る賃金は支払えません。雇用条件書の金額が古いままでも、法律上は改定後の額で定めたものとみなされます。

2

これから申請する人

雇用条件書に記載する賃金額を、改定前と改定後のどちらで作るかという判断が必要になります。就労開始が10月以降なら、改定後の額で設計するのが基本です。

3

更新を控えている人

改定をまたぐ時期の更新申請では、申請時点の額で出すか、改定後の額に直してから出すかを決める必要があります。第4章で扱います。

4

共通|書類の整合性

雇用条件書、賃金台帳、定期届出で報告する報酬額。これらが食い違うと、更新審査や実地調査で説明を求められます。

支払義務は法律上、自動的に生じます

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。 最低賃金法 第4条第1項・第2項

つまり、雇用契約書の金額が改定前のままであっても、その部分は無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。「契約書がそうなっているから」という説明は通りません。地域別最低賃金に違反した場合、50万円以下の罰金が定められており、法人に対する両罰規定もあります。

3. 最低賃金の計算で算入できないもの

特定技能でよく問題になるのが、この点です。月給制の場合、月給を1か月平均所定労働時間で割って時間額に換算し、地域別最低賃金額と比較します。このとき、すべての手当を足して計算することはできません。

最低賃金法第4条第3項は、次の賃金を算入しないと定めています。

賃金算入具体例
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金算入しない賞与、年1回の一時金など
通常の労働時間・労働日の賃金以外の賃金算入しない時間外・休日・深夜の割増賃金
当該最低賃金で算入しないと定める賃金算入しない精皆勤手当、通勤手当、家族手当
基本給・毎月支払われる諸手当算入する基本給、職務手当など

最低賃金法第4条第3項および厚生労働省令に基づく整理です。

固定残業代は最低賃金に算入できません

これが最大の落とし穴です。特定技能では、基本給に加えて固定残業代を設定している例が多くありますが、固定残業代は時間外労働の割増賃金なので、最低賃金の計算には入りません。「総支給額で見れば最低賃金を超えている」という計算は成り立ちません。
固定残業代を設定している企業は、改定後の最低賃金額と基本給部分だけを比較して確認してください。通勤手当や家族手当を支給している場合も同様です。

4. 改定をまたぐ時期の申請をどうするか

8月から9月にかけて、必ずご相談をいただく論点です。「10月に最低賃金が上がるが、今出す申請の雇用条件書はどちらの金額で作るべきか」という質問です。

考え方の整理

状況実務上の考え方
改定後も最低賃金を上回る賃金額現在の賃金額のまま雇用条件書を作成して差し支えありません。改定の影響を受けないためです
改定後は最低賃金を下回る賃金額改定後の額を織り込んだ賃金で設計するのが安全です。申請時点では適法でも、就労開始時点で違法な条件になっていては意味がありません
就労開始が10月以降になる見込み就労開始時点の最低賃金で判断されるべき性質のものです。改定後の額を前提に設計してください

迷ったら、改定後の額で設計するほうが安全です

改定前の額で申請して許可を受けても、発効日以降は最低賃金額での契約とみなされます。結局は賃金を上げ、雇用条件書も作り直すことになります。二度手間を避けるという意味でも、最初から改定後の額で組んでおくほうが実務的です。

審査中に改定日をまたぐ場合

申請から許可までの期間に発効日をまたぐことがあります。この場合の取扱いについて明確な公表基準は確認できていませんが、就労開始時点で適法な条件になっているかが実質的な判断基準になると考えられます。ぎりぎりの賃金設定で申請するより、余裕を持たせておくほうが確実です。

5. 最低賃金を超えていれば足りるわけではない

ここを取り違えている企業が少なくありません。特定技能では、最低賃金とは別に同等報酬要件があります。

出入国在留管理庁は、特定技能外国人の報酬額について、日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と同等以上であることを求めています。つまり、最低賃金を1円でも上回っていればよいという話ではありません。

最低賃金の改定は、同等報酬の説明にも波及します

最低賃金が上がると、日本人従業員の賃金も引き上げることになります。そのとき特定技能外国人の賃金だけ据え置くと、同等性の説明が崩れます。日本人を上げて外国人を据え置いた結果、更新申請で説明できなくなる、という事態は避けてください。

賃金体系全体を見て改定を設計してください。特定技能外国人だけを最低賃金ぎりぎりに合わせる対応は、その場は乗り切れても、更新のたびに説明が苦しくなります。

6. 最低賃金の改定に伴う賃上げに、届出は必要か

「賃金を変えたら14日以内に届出」と説明されることが多いため、最低賃金の改定のたびに随時届出が必要だと思われている企業があります。結論から言えば、賃上げのみであれば届出は不要です。入管庁が明示しています。

1|自社の最低賃金額と発効日を確認
8月から9月にかけて、都道府県ごとの金額と発効日が公表されます。事業所が複数の都道府県にある場合は、事業所ごとに確認が必要です。
2|基本給部分だけで比較する
固定残業代、通勤手当、家族手当、賞与を除いた金額を時間額に換算し、改定後の最低賃金額と比較します。1人ずつ確認してください。
3|賃金を改定し、雇用条件書を作り直す
本人が十分に理解できる言語で内容を説明し、署名を得ます。特定技能では、この手順自体が求められている点にご注意ください。
4|届出の要否を確認する
賃上げのみであれば届出は不要です。ただし、最低賃金への対応を機に手当を廃止する、賃金体系を組み替えるなど、不利益な変更が混ざる場合は届出が必要になります。次の整理をご確認ください。
5|翌年の定期届出との整合を確認
定期届出では対象期間の報酬を報告します。年度途中で改定した場合、記載内容に影響します。

賃上げだけなら、随時届出は不要です

出入国在留管理庁「特定技能所属機関からの随時届出に関連してお問い合わせの多い事項について(Q&A)」に、次の設問があります。

「労働関係法令の改定などに伴い労働条件に変更がありましたが、特定技能雇用契約の変更に係る届出は必要ですか」——これに対し、労働条件を変更したことで諸手当の増額等により賃金が増加する場合には届出は不要であり、他方で基本賃金の減額や昇給がなくなるといった場合には届出が必要となる、と示されています。

同じ考え方は他の設問でも一貫しています。昇給に伴って基本賃金が上がる場合、食事手当の支給によって賃金が増加する場合、休業手当の支給割合を上げる場合は、いずれも届出は不要とされています。特定技能外国人にとって有利な変更は届出の対象外という整理です。

ただし、不利益な変更が混ざると届出が必要になります

実務で注意が要るのはここです。最低賃金への対応として、基本給を上げる代わりに手当を整理する、という組み替えを行う企業があります。この場合、賃上げ部分は届出不要でも、手当の廃止部分は届出の対象になります。基本賃金額が変わらないまま手当の支給がなくなった場合について、届出が必要とされています。

次のような対応を検討している場合は、届出の要否をご確認ください。

・固定残業代を減らして基本給に振り替える
・通勤手当や食事手当を廃止して基本給に上乗せする
・賞与の支給を取りやめる(支給額が定められている場合)
・労使協定に基づく控除を新たに設ける

10月は更新申請と重なります

最低賃金の発効は10月以降、在留期間更新の手数料改定も2026年10月1日が予定されています。加えて、賃金改定に伴う雇用条件書の見直し。これらが同じ時期に集中します。賃上げ自体に届出は不要でも、更新申請では改定後の条件で雇用条件書を作り直すことになります。対象者が複数いる企業は、8月のうちに段取りを決めておくことをおすすめします。

7. よくあるご質問

Q. 総支給額は最低賃金を超えています。それでも賃金を上げる必要がありますか。

A. 総支給額では判断しません。固定残業代、通勤手当、家族手当、賞与などは最低賃金の計算に算入されません。これらを除いた金額を時間額に換算し、改定後の最低賃金額と比較してください。除外後の金額が下回る場合は、賃金の見直しが必要です。

Q. 9月中に更新申請を出します。雇用条件書はどちらの金額で作りますか。

A. 改定後も最低賃金を上回るのであれば、現在の額のままで差し支えありません。改定後に下回ることが見込まれる場合は、改定後の額を織り込んで作成するほうが安全です。改定前の額で許可を受けても、発効日以降は結局賃金を上げることになり、雇用条件書の変更と届出が発生します。

Q. 最低賃金が上がったら、そのたびに入管へ届出が必要ですか。

A. 賃上げのみであれば不要です。入管庁のQ&Aで、労働関係法令の改定などに伴う労働条件の変更については、賃金が増加する場合には届出は不要とされています。ただし、基本賃金の減額や昇給の取りやめといった不利益な変更が含まれる場合は届出が必要です。手当の廃止と基本給の引上げを組み合わせるような場合はご注意ください。

Q. 最低賃金対応のため、固定残業代を減らして基本給に振り替えます。届出は必要ですか。

A. 確認が必要です。総額が増えていても、手当の廃止や減額が含まれる変更は届出の対象になり得ます。基本賃金額が変わらないまま手当の支給がなくなった場合について、入管庁は届出が必要としています。組み替えを行う場合は、変更内容を整理したうえで要否を判断してください。

Q. 日本人従業員の賃金は据え置き、特定技能外国人だけ最低賃金に合わせて上げれば足りますか。

A. 最低賃金法上はそれで足りますが、逆のパターンにご注意ください。日本人従業員の賃金を引き上げ、特定技能外国人を据え置くと、同等報酬要件の説明が難しくなります。更新申請の際に問題になりますので、賃金改定は全体の整合を見て行ってください。

Q. 事業所が複数の都道府県にあります。どの最低賃金が適用されますか。

A. 地域別最低賃金は、実際に働いている事業場の所在地によって適用されます。本社の所在地ではありません。事業所ごとに確認してください。

Q. 都道府県ごとの金額はいつ分かりますか。

A. 各地方最低賃金審議会の答申を経て、各都道府県労働局長が決定します。例年、8月から9月にかけて公表され、10月以降に順次発効します。所在地を管轄する労働局の公表をご確認ください。

申請・届出のご依頼について

改定後の条件を踏まえた雇用条件書の作成、更新申請、届出まで対応しています。対象者が複数いる場合もまとめて承ります。

特定技能の申請・届出費用

表示はすべて税別/着手金なし

在留資格変更
許可申請
50,000
改定後の条件で雇用条件書を作成
在留期間更新
許可申請
30,000
改定を踏まえた条件で作成
随時届出
(1件)
20,000
手当の廃止等を伴う場合

定期届出は30,000円(1所属機関あたり3名まで、4名以降は1名につき5,000円)です。入管の手数料等の実費は別途申し受けます。

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参考にした一次情報

厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日公表)
最低賃金法 第4条・第40条・第42条
出入国管理及び難民認定法 第19条の18/同法施行規則 第19条の17
出入国在留管理庁「特定技能所属機関からの随時届出に関連してお問い合わせの多い事項について(Q&A)」
出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」
特定技能外国人受入れに関する運用要領(出入国在留管理庁)

本記事は2026年8月1日時点で公表されている情報に基づいて作成しています。都道府県ごとの地域別最低賃金額および発効日は今後決定・公表されます。自社に適用される金額と発効日は、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の公表をご確認ください。個別の事情により結論が異なる場合があります。
執筆:行政書士 鹿間英樹(行政書士しかま事務所/東京都新宿区西新宿4-40-5 西新宿ビューハイツ903)