特定技能の費用は会社負担か本人負担か|支援費用と申請費用の線引き
特定技能の費用は会社負担か、本人負担か
支援費用・申請費用・実費の線引きを条文から整理する
特定技能では、外国人本人に負担させてはいけない費用が省令で定められています。一方で、本人が負担してよい費用も、法令に定めがなく当事者の合意で決める費用もあります。この3つを混ぜたまま運用すると、届出や更新申請の段階で問題になります。
「ビザの費用は本人に払ってもらってもいいですか」「支援委託費を給与から引いてもいいですか」——受入企業からも登録支援機関からも、よくいただくご質問です。判断を誤ると、支援計画の基準に適合しないと判断されたり、労働基準法上の問題になったりします。この記事では、費用を3つに分けて整理します。
この記事の結論
分かれ目は「義務的支援に係る費用かどうか」。
そして「給与から引いていないか」です。
1号特定技能外国人支援に要する費用(義務的支援に係るものに限る)は、直接にも間接にも本人に負担させてはならないと省令で定められています。登録支援機関への委託費用もここに含まれます。一方、帰国費用や住居費・食費などの実費は、内容を明示して同意を得れば本人負担が可能です。行政書士報酬や入管手数料は義務的支援に含まれないため、本人に負担させることを禁じる規定はありませんが、実務上は会社負担とするのが一般的です。そして、どの費用であっても給与から差し引く形にすると、別の問題が生じます。
「本人作成用」の申請書があるから本人負担、にはなりません
特定技能の申請書類には「申請人等作成用」と「所属機関等作成用」があります。この区分を根拠に「費用も本人と会社で分けられるのでは」というご相談をいただくことがありますが、これは書類上の作成主体の区分であって、費用を誰が負担すべきかを定めたものではありません。詳しくは第5章で説明します。
目次
1. 費用は3つに分けて考える
特定技能で発生する費用は、法令上の扱いが同じではありません。次の3つに分けると判断しやすくなります。
本人に負担させてはいけない費用
義務的支援に係る費用。省令に定めがあり、直接・間接を問わず本人負担が禁止されています。登録支援機関への委託費用もここに入ります。
本人が負担してもよい費用
帰国費用、住居費・食費・水道光熱費などの実費。ただし内容と金額を明示し、本人が理解したうえで同意していることが前提です。
法令に定めがなく、当事者で決める費用
在留諸申請の行政書士報酬、入管の手数料など。本人負担を禁じる規定はありませんが、実務上は会社負担とするのが一般的です。
どの費用にも共通する制約
本人負担が可能な費用であっても、給与から差し引く形にすると労働基準法上の問題が生じます。第6章で詳しく説明します。
2. 本人に負担させてはいけない費用
これは法令上明確です。特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(特定技能基準省令)に、次の定めがあります。
そして運用要領では、この対象が「義務的支援に係るもの」に限られることが示されています。義務的支援とは、支援計画に必ず盛り込まなければならない次の項目です。
| 義務的支援の項目 | 内容 |
|---|---|
| 事前ガイダンス | 申請前に、雇用契約の内容、活動内容、上陸・在留の条件等を説明する |
| 出入国する際の送迎 | 港・飛行場での送迎 |
| 住居確保・生活に必要な契約の支援 | 賃貸借契約の保証人となること、銀行口座の開設、携帯電話の契約等の支援 |
| 生活オリエンテーション | 入国後(変更後)に、生活一般、届出等の手続、相談先、医療機関、防災防犯等を説明する |
| 公的手続等への同行 | 届出その他の手続の履行にあたり、必要に応じて関係機関へ同行する |
| 日本語学習の機会の提供 | 生活に必要な日本語を学習する機会を提供する |
| 相談・苦情への対応 | 相談・苦情を受けたときに遅滞なく応じ、助言・指導その他必要な措置を講ずる |
| 日本人との交流促進 | 地域住民との交流の機会等を提供する |
| 転職支援 | 本人の責めによらず契約を解除される場合に、次の受入れ先を探す支援を行う |
| 定期面談・行政機関への通報 | 支援責任者等が本人および監督者と定期的に面談し、法令違反を知ったときは通報する |
特定技能基準省令第3条第1項第1号イ〜ヌの内容を整理したものです。
登録支援機関への委託費用も、本人に負担させられません
義務的支援を登録支援機関に委託した場合の委託費用は、支援に要する費用そのものです。月額の支援委託費を本人の給与から差し引く運用は、条文が禁じる「間接に負担させる」場合に当たると判断されるおそれがあります。「本人のための支援だから本人が負担するのが筋だ」という説明は、この制度では通りません。
「間接に」という文言の意味
条文は「直接又は間接に」負担させないこととしています。つまり、名目を変えて実質的に本人に負担させる形も対象になります。たとえば、支援費用相当額を寮費に上乗せする、支援費用を差し引いた額を基本給として設定する、といった処理は、実質を見て判断されることになります。
3. 本人が負担してもよい費用
すべての費用が会社負担というわけではありません。本人負担が認められる費用もあります。
帰国費用
雇用契約終了後の帰国に要する費用は、基本的に本人が負担するものとされています。ただし、本人が負担できない場合には、受入れ機関が費用を負担し、円滑に出国できるよう必要な措置を講じることが求められます。「本人が払えないなら関係ない」という整理にはなりません。
住居費・食費・水道光熱費などの実費
社宅を貸与する場合の住居費、食事を提供する場合の食費、水道光熱費などは、本人負担とすることができます。ただし条件があります。
実費を徴収するための前提
1.徴収する費用の内容と金額を明示していること
2.本人が十分に理解できる言語で説明を受け、同意していること
3.金額が実費相当額であること(利益を上乗せしないこと)
本人から徴収する食費・住居費・その他の費用は、雇用条件書の別紙「賃金の支払」に、控除する項目と金額を記載して明示します。本人が十分に理解できる言語で説明したうえで署名を得ることになります。ここに記載していない費用を後から徴収する運用は、後日の定期面談や届出の場面で問題になり得ます。
住居費は「借上コストを人数で割った額」が基本です
社宅の家賃を本人から徴収する場合、根拠は実際の借上げコストです。「周辺相場より安いから問題ない」という説明は、実費という考え方から外れます。会社が借り上げた物件に複数名が入居しているなら、借上げコストを入居人数で按分した額が基本になります。
4. 法令に定めがない費用|行政書士報酬・入管手数料
ご質問が最も多いのがここです。結論から言えば、在留諸申請にかかる行政書士報酬や入管の手数料について、本人に負担させてはいけないという規定はありません。
理由は単純で、在留諸申請の書類作成・申請取次は、前章で挙げた義務的支援10項目のいずれにも含まれていないからです。「支援に要する費用」に当たらない以上、省令第2条第1項第8号の禁止は及びません。
それでも実務上は会社負担が一般的です
理由は3つあります。
1.在留資格の取得・更新は、雇用契約を履行するために必要な手続であること。会社が外国人を雇用するために必要な費用という整理が自然です。
2.本人負担とすると、実質的な手取りが減り、報酬の妥当性についての説明が難しくなること。
3.採用市場で不利になること。同条件なら、費用を負担する会社が選ばれます。
本人負担とする場合に注意すべき点
本人負担とすること自体は禁止されていませんが、その場合も金額を明示し、同意を得たうえで、給与から差し引かない形にする必要があります。また、退職時に「申請費用を返還させる」といった取り決めは、労働基準法第16条が禁じる賠償予定に当たるおそれがあります(第6章参照)。
入管の手数料
在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請は、許可されるときに手数料が必要です。現在は窓口申請で6,000円、オンライン申請で5,500円です。この手数料は2026年10月1日から改定される予定で、許可される在留期間に応じた段階制になる案が示されています。金額は政令で定まるため、確定額は政令の公布後にご確認ください。
手数料の改定内容は別記事で解説しています
改定案の区分ごとの金額、施行時期、受入企業として取るべき対応については、次の記事で詳しく整理しています。
→ 在留の更新・変更手数料が2026年10月から値上げ|新料金表と受入企業の対策
5. 「本人作成用」「所属機関作成用」は費用負担の根拠にならない
「申請書には申請人等作成用と所属機関等作成用があるのだから、費用も本人と会社で分けて負担すべきではないか」——書式を見た方が思いつきやすい発想です。
ただ、この考え方は成り立ちません。理由を整理します。
| 論点 | 整理 |
|---|---|
| 申請書の区分の意味 | 「申請人等作成用」「所属機関等作成用」は、どちらが記載内容について責任を負うかを分けた書式上の区分です。誰が費用を負担するかを定めた規定ではありません。 |
| 作業量との対応 | 行政書士報酬は、申請書1枚あたりの単価ではなく、案件全体(要件確認・資料収集・書類作成・申請取次)に対する報酬です。書式の枚数で按分できる性質のものではありません。 |
| 委任契約の当事者 | 委任契約を締結した相手が報酬の支払義務者です。会社が委任者であれば会社が支払います。本人と会社の双方が委任者であれば、双方が支払うことになります。 |
分けて請求すること自体は可能です
本人と会社との間で合意があり、請求先ごとの金額が明確であれば、請求書を分けて発行すること自体は可能です。ただしそれは、書式の区分から自動的に導かれるものではなく、当事者間の合意によって決まるものです。順序が逆にならないようご注意ください。
6. 給与から差し引く運用が危ない理由
本人負担が可能な費用であっても、給与から差し引く方法を取ると、入管の観点とは別に労働基準法上の問題が生じます。
ただし書により、法令に別段の定めがある場合か、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができます。つまり、控除には労使協定が必要です。
労使協定があっても、支援費用の控除は別問題です
労使協定があれば労働基準法上の控除は可能になりますが、それによって義務的支援に係る費用を本人負担にできるわけではありません。省令が禁じているのは「直接又は間接に負担させること」であり、控除という手段の適法性とは別の話です。控除協定があるから支援費用を引いてよい、という整理は成り立ちません。
「1年以内に退職した場合は申請費用を返還する」「途中で辞めたら渡航費を返してもらう」といった取り決めは、この規定に触れるおそれがあります。加えて特定技能では、違約金を定める契約等の締結が特定技能雇用契約の基準に関わる問題としても位置づけられているため、二重にリスクがあります。
7. 費用負担の早見表
| 費用 | 本人負担 | 根拠・注意点 |
|---|---|---|
| 義務的支援10項目に要する費用 | できない | 特定技能基準省令第2条第1項第8号。直接・間接を問わない |
| 登録支援機関への支援委託費 | できない | 支援に要する費用そのもの。給与控除も不可 |
| 事前ガイダンス・生活オリエンテーションの通訳費 | できない | 義務的支援の実施に伴う費用 |
| 帰国費用 | できる | 本人負担が基本。負担できない場合は会社が負担し、円滑な出国のための措置を講じる |
| 住居費(社宅の家賃) | できる | 実費相当額に限る。雇用条件書の別紙「賃金の支払」で明示 |
| 食費・水道光熱費 | できる | 同上。利益の上乗せは不可 |
| 技能試験・日本語試験の受験料 | できる | 雇用契約前に本人が受験するもの |
| 在留諸申請の行政書士報酬 | 規定なし | 義務的支援に含まれないため禁止規定はない。実務上は会社負担が一般的 |
| 入管の手数料(許可時) | 規定なし | 同上。2026年10月1日から改定予定 |
| 健康診断の費用 | 規定なし | 雇入時健康診断として会社が実施する場合は会社負担が基本 |
「規定なし」は、本人に負担させることを禁じる規定が確認できないという意味であり、本人負担を推奨するものではありません。いずれの場合も、金額の明示と同意、給与から差し引かないことが前提になります。
8. よくあるご質問
Q. 支援委託費を毎月の給与から差し引いています。問題ありますか。
A. 支援に要する費用を間接的に本人に負担させている状態と判断されるおそれがあります。省令は直接・間接を問わず本人負担を禁じています。速やかに運用を見直すことをおすすめします。すでに控除している分の取扱いについては、個別の状況を踏まえて検討する必要がありますので、ご相談ください。
Q. 本人が「自分で払う」と言っている場合はどうですか。
A. 義務的支援に係る費用については、本人が同意していても負担させることはできません。この規定は本人の同意で外れる性質のものではないためです。一方、実費や申請費用のように本人負担が可能な費用については、同意があることが前提条件になります。
Q. 申請費用を会社と本人で折半したいのですが、可能ですか。
A. 行政書士報酬について本人負担を禁じる規定はないため、合意があれば分担すること自体は可能です。ただし、金額を明示して同意を得ること、給与から差し引かないこと、退職時の返還を条件にしないことが必要です。なお、申請書に「申請人等作成用」があることは、費用を分担すべき根拠にはなりません。
Q. 渡航費(航空券代)は会社が負担しなければいけませんか。
A. 来日時の渡航費について、会社負担を義務づける規定は確認できません。帰国費用については本人負担が基本とされていますが、本人が負担できない場合には会社が負担して円滑な出国のための措置を講じる必要があります。実務上は、採用競争力の観点から来日時の渡航費を会社が負担するケースが増えています。
Q. 人材紹介会社への紹介手数料を本人から回収できますか。
A. できません。本人やその親族から保証金を徴収する契約、違約金を定める契約その他不当に金銭の移転を予定する契約を締結していないことが、特定技能雇用契約の基準として定められています。紹介手数料を本人に転嫁する形は、この基準に照らして問題となります。
申請・届出のご依頼について
当事務所は特定技能に特化し、来客対応を行わない完全オンライン体制で運営しています。費用負担の設計を含めて、申請前の段階からご相談いただけます。
特定技能1号の申請・届出費用
表示はすべて税別/着手金なし
交付申請
許可申請
許可申請
入管の手数料等の実費は別途申し受けます。分野・在留状況により個別のお見積りとなる場合があります。
費用の設計から、申請・届出までご相談ください
「この費用は本人に負担してもらってよいか」「雇用条件書にどう書くべきか」といったご相談も承ります。
雇用条件書の作成段階でご相談いただくと、後から修正する手間を避けられます。全国オンライン対応です。
参考にした一次情報
特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令 第2条第1項第8号・第3条第1項第1号特定技能外国人受入れに関する運用要領(出入国在留管理庁)
労働基準法 第16条・第24条
本記事は2026年8月1日時点で確認できる法令・公表資料に基づいて作成しています。個別の事情によって判断が異なる場合がありますので、実際のご対応にあたっては当事務所までご相談ください。入管の手数料は2026年10月1日から改定が予定されており、金額は政令で定まります。
執筆:行政書士 鹿間英樹(行政書士しかま事務所/東京都新宿区西新宿4-40-5 西新宿ビューハイツ903)

