特定技能の自社支援、本当に得か損か|年間180万円の委託費を見直す前にチェックすべき5項目
特定技能の自社支援、本当に得か損か|年間180万円の委託費を見直す前にチェックすべき5項目
「自社支援に切り替えれば月額委託費がゼロに」——そう言われても、実際にやろうとすると要件で詰まる会社は少なくありません。本記事では、自社支援を運営できている企業と、検討の末に断念した企業の違いを、特定技能ビザ申請の現場で見てきた観点から整理します。
自社支援の最大の壁は、コスト計算でもノウハウでもなく「支援担当者の中立性」です。中小企業では、外国人を直接指揮命令する立場の人と、支援担当者として登録できる人が重なってしまい、要件を満たせないことが頻繁に起こります。専任部署を設けられる規模感になって、初めて自社支援は本格的に機能します。
目次
そもそも自社支援とは|委託しないという選択肢
特定技能1号の外国人を雇用する受入企業には、入管法上「10項目の支援」を実施する義務があります。多くの企業はこの支援を登録支援機関に委託していますが、企業自身が行う「自社支援」も制度上認められています。
自社支援を選ぶと、登録支援機関への月額委託費(一般的に1人あたり2.5〜4万円)がゼロになります。5名雇用なら年間180万円規模のコスト削減が計算上は可能です。
しかし「コスト削減できるなら自社支援を選ぼう」と進めようとして、要件で詰まる会社が少なくありません。最大のボトルネックが、次に解説する支援担当者の中立性です。
最大の壁は「中立性」|なぜ多くの会社が断念するのか
自社支援を行うには、入管法上の要件として支援責任者と支援担当者を選任しなければなりません。この担当者には、形式的な要件(常勤、外国語対応能力、過去2年の受入実績等)に加え、「中立性」が求められます。
中立性の要件とは
運用要領上、支援担当者は「特定技能外国人を監督する立場にない者」であることが原則とされています。これは、外国人本人が支援担当者に対して悩みや苦情を率直に伝えられる関係性を確保するためです。直接の上司が同時に支援担当者を兼ねていると、本音の相談が成立しにくくなります。
なぜここで中小企業が詰まるのか
中小規模の受入企業では、現実問題として以下のような構造があります。
この構造があるため、「自社支援できると思って準備を進めたが、要件確認の段階で断念した」というケースが実際にあります。コスト削減シミュレーションだけを見て決断する前に、自社の人員体制で要件を満たせるかの確認が不可欠です。
回っている自社支援の典型|専任部署を設けるパターン
では、自社支援が機能している会社はどんな体制をとっているのか。介護分野では、こういう体制を組む企業があります。
外国人支援専門の部署を立ち上げるパターン
受入規模が複数施設・数十名規模になると、外国人支援を専門に行う独立部署を立ち上げ、そこに専任の担当者を配置する企業が出てきます。この部署は通常以下のような特徴を持ちます。
- 事業部門(介護現場)から組織的に独立しており、現場の指揮命令系統に属さない
- 専任スタッフが外国人本人の窓口になり、定期面談・生活相談・行政手続き同行を担当
- 外国語対応能力を持つスタッフを配置(多言語ニーズに応じて複数言語)
- 採用から定着まで一貫して関与し、現場と外国人の橋渡し役を果たす
この体制であれば、支援担当者は組織上「現場の上司」ではないため、中立性要件をクリアできます。同時に、外国人本人にとっても「現場のしがらみとは別の相談先」が確保されるため、定着率や満足度の向上にもつながりやすくなります。
このパターンが成立する条件
専任部署型が機能するには、いくつか前提条件があります。
- 受入人数が一定規模以上(目安として10名以上)あり、専任配置に経済合理性がある
- 経営層が外国人雇用を「一過性の人手不足対策」ではなく「継続的な戦略」と位置付けている
- 専任スタッフを採用・育成する予算と時間がある
- 多言語対応の体制を社内で(または委託で)構築できる
言い換えると、受入数が数名規模で、経営層のコミットがそこまで強くない場合、専任部署型は現実的ではありません。その場合は、登録支援機関への委託を継続するほうが安全な選択になります。
自社支援セルフチェック|要件を満たせるか
自社支援への切り替えを検討するなら、最初にチェックすべきは「要件を満たせるか」です。コスト試算より先にここを確認してください。
必須要件チェックリスト
| 要件 | 確認ポイント |
|---|---|
| 過去2年の受入実績 | 中長期在留者の受入れ・管理実績が過去2年間にあるか。実績がない場合も代替要件で対応可能なケースあり。 |
| 支援責任者の選任 | 役員または相当の者から選任できるか。支援業務全体を統括する立場として選任が必要。 |
| 支援担当者の選任 | 各事業所に1名以上の支援担当者を選任できるか(常勤であることが望ましいとされています)。中立性要件もあわせて満たす必要があります。 |
| 支援担当者の中立性 | 支援担当者が外国人を直接指揮命令する立場にないか。これが最も詰まりやすいポイント。 |
| 外国語対応能力 | 外国人が十分理解できる言語で支援できる体制があるか。本人の母国語または共通言語(英語等)。 |
とくに注意したい論点
- 「中立性」は形式論ではなく実質判断:肩書きを変えても、実態として外国人を指揮命令する立場にあれば認められません
- 事業所ごとの配置:自社支援では外国人が就労する事業所ごとに1名以上の支援担当者選任が必要です
- 支援責任者と支援担当者の兼任は可能ですが、双方の基準を1人で満たす必要があります
- 個別ケースの判断に迷う場合は、管轄の地方出入国在留管理局へ事前相談することをお勧めします
「自社支援にできない」場合の現実的な選択肢
セルフチェックの結果、自社支援が現実的でないとなった場合、選択肢は3つあります。
コスト比較|本当に「丸ごと得」なのか
自社支援の経済性を語るとき、月額委託費の削減額だけが強調されがちですが、実際には自社運営に伴うコストも発生します。総コストでの比較が必要です。
コスト試算の例(5名雇用の場合)
| 費目 | 登録支援機関に委託 | 自社支援+行政書士 |
|---|---|---|
| 支援委託費 | 年180万円 (月3万円×5名×12か月) | 0円 |
| 専任スタッフ人件費(按分) | — | 年60〜120万円 (業務工数に応じて) |
| 通訳・教材・面談記録管理 | 委託費に込み | 年20〜40万円 |
| 行政書士費(更新申請) | 年25〜35万円 (一般相場:5〜7万円×5名) | 年25〜35万円 (一般相場:5〜7万円×5名) |
| 年間合計(概算) | 205〜215万円 | 105〜195万円 |
※ 2026年1月施行の行政書士法改正により、登録支援機関に委託している場合でも、ビザ申請書類の作成は行政書士に直接依頼する必要があります。そのため、行政書士費用は委託・自社支援いずれのパターンでも発生します。なお当事務所の更新料金は1名30,000円〜のため、上記の行政書士費はおおむね半額(年15万円前後)に圧縮可能です。
1年単位ではなく「累積」で見る経済合理性
上記の年間試算では、1年単位で見た場合の差額は10〜110万円程度です。「10名以上の規模になれば1年単位でも経済合理性が明確に出る」のが一般的で、3〜5名規模だと専任配置のコスト負担が重く、初年度は損益分岐点ぎりぎりになることもあります。
ただし、自社支援は継続するほど経済合理性が高まる構造です。委託費(年180万円)が完全になくなる一方で、専任スタッフの教育投資・体制構築コストは初期に集中するため、2年目以降は固定的な人件費だけが残ります。
| 累積期間 | 登録支援機関に委託 | 自社支援+行政書士 | 累積差額 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 205〜215万円 | 105〜195万円 | 10〜110万円 |
| 3年累積 | 615〜645万円 | 295〜495万円 (2年目以降は人件費中心) | 120〜350万円 |
| 5年累積 | 1,025〜1,075万円 | 485〜795万円 | 230〜590万円 |
5名規模でも、5年スパンで見れば200〜600万円規模の削減が見込める計算になります。短期の損益だけで判断せず、外国人雇用を中長期で続ける方針かどうかを軸に検討するのが妥当です。
コスト以外の論点
自社支援に切り替えると、以下のような副次効果も生じます(プラス・マイナス両面)。
- 外国人本人との直接コミュニケーションが増え、定着率が向上しやすい
- 面談・相談記録のノウハウが社内に蓄積される
- 行政手続き・労務管理に関する社内知見が深まる
- 支援業務の負荷が社内に発生する(年間で数百時間規模)
- 支援義務違反のリスクは企業が直接負う
- 定期届出・随時届出の作成義務も自社で対応する必要がある
特定技能内製化支援
登録支援機関への委託からの脱却を、戦略的に伴走する専門サービス
本記事をお読みいただいて、「自社支援にチャレンジしたい。ただし要件確認・体制設計・運用立ち上げまで、専門家に伴走してほしい」とお考えの企業様向けに、当事務所では専門のサービスをご用意しています。
このサービスは、通常のビザ申請業務とは性質が異なる専門サービスとして位置付けています。年間300件超の申請業務で得た運用要領の深い理解と、自社支援の現場観察、加えて担当者がもともと経営コンサルティングを生業としてきた経験を組み合わせ、「自社支援を本気で機能させる」ことだけを目的に設計しています。
このサービスが向いている企業
- 特定技能外国人の受入れが10名以上、または今後10名規模まで拡大予定
- 登録支援機関への委託費(年間数百万円〜)の見直しを経営課題と認識している
- 外国人雇用を一過性ではなく、中長期の戦略として位置付けている
- 専任の支援部署または専任担当者を新設する経営判断ができる
- 移行プロセスを「自前で手探り」ではなく「専門家伴走」で進めたい
提供する内容
本サービスは少数の企業様に深く伴走する設計のため、同時受付件数を限定しています。お問い合わせフォームより「特定技能内製化支援について」とご記載のうえご連絡ください。
当事務所のサービス範囲
当事務所のサービスは、特定技能ビザの申請・届出を主軸とし、必要に応じて特定技能内製化支援もご提供しています。
標準サービス(ビザ申請・届出)
- 特定技能ビザの認定・変更・更新申請
- 支援計画書の作成・確認
- 定期届出書の作成・提出代行
- 随時届出(雇用契約変更等)の作成
- 申請に関する初回スクリーニング相談(無料)
※ 自社支援への移行を本格的に支援する「特定技能内製化支援」については、前章の専用セクションをご参照ください。
料金
「初回スクリーニング相談(60分)」は無料です。お電話やフォームから内容をお伺いし、当事務所のどのサービス枠に該当するかをまずご案内します。
特定技能ビザ申請・定期届出のご依頼
申請可否の事前確認、概算費用のご案内まで、初回相談(60分)は無料です。
この記事のまとめ
- 自社支援は「コストが浮く」より先に「要件を満たせるか」の確認が必要
- 最大の壁は支援担当者の中立性。中小企業ほどここで詰まりやすい
- 回っている自社支援の典型は専任部署を設けるパターン。受入規模10名以上が目安
- セルフチェックは中立性、常勤、過去実績、外国語対応、事業所ごとの配置の5項目
- 自社支援にできない場合は、現状継続・支援機関見直し・将来的な専任部署化の3択
- 当事務所では特定技能ビザの申請・届出に加え、本格的な体制づくりをご検討の企業様向けに特定技能内製化支援もご提供しています



