特定技能の自社支援、本当に得か損か|年間180万円の委託費を見直す前にチェックすべき5項目

特定技能|自社支援の判断材料

特定技能の自社支援、本当に得か損か|年間180万円の委託費を見直す前にチェックすべき5項目

「自社支援に切り替えれば月額委託費がゼロに」——そう言われても、実際にやろうとすると要件で詰まる会社は少なくありません。本記事では、自社支援を運営できている企業と、検討の末に断念した企業の違いを、特定技能ビザ申請の現場で見てきた観点から整理します。

⏱ 読了時間:約11分 📅 公開:2026年5月 ✍ 行政書士 鹿間英樹
この記事の結論

自社支援の最大の壁は、コスト計算でもノウハウでもなく「支援担当者の中立性」です。中小企業では、外国人を直接指揮命令する立場の人と、支援担当者として登録できる人が重なってしまい、要件を満たせないことが頻繁に起こります。専任部署を設けられる規模感になって、初めて自社支援は本格的に機能します。

そもそも自社支援とは|委託しないという選択肢

特定技能1号の外国人を雇用する受入企業には、入管法上「10項目の支援」を実施する義務があります。多くの企業はこの支援を登録支援機関に委託していますが、企業自身が行う「自社支援」も制度上認められています。

特定技能所属機関は、当該特定技能所属機関と特定技能雇用契約を締結している1号特定技能外国人について、1号特定技能外国人支援計画を作成し、これに基づいて支援を行わなければならない。 出入国管理及び難民認定法 第2条の5 第6項

自社支援を選ぶと、登録支援機関への月額委託費(一般的に1人あたり2.5〜4万円)がゼロになります。5名雇用なら年間180万円規模のコスト削減が計算上は可能です。

しかし「コスト削減できるなら自社支援を選ぼう」と進めようとして、要件で詰まる会社が少なくありません。最大のボトルネックが、次に解説する支援担当者の中立性です。

最大の壁は「中立性」|なぜ多くの会社が断念するのか

自社支援を行うには、入管法上の要件として支援責任者支援担当者を選任しなければなりません。この担当者には、形式的な要件(常勤、外国語対応能力、過去2年の受入実績等)に加え、「中立性」が求められます。

中立性の要件とは

運用要領上、支援担当者は「特定技能外国人を監督する立場にない者」であることが原則とされています。これは、外国人本人が支援担当者に対して悩みや苦情を率直に伝えられる関係性を確保するためです。直接の上司が同時に支援担当者を兼ねていると、本音の相談が成立しにくくなります。

1号特定技能外国人支援計画の適正な実施を確保するためには、支援を担当する者が、特定技能外国人を監督する立場の者と異なる者であることが望ましい。 1号特定技能外国人支援に関する運用要領(出入国在留管理庁)に基づく解釈

なぜここで中小企業が詰まるのか

中小規模の受入企業では、現実問題として以下のような構造があります。

構造①
人事責任者=現場責任者
社員数の少ない企業では、人事を担う人と現場で外国人を指揮する人が同じ、あるいは近い関係になりがちです。中立性のある別人を立てる余裕がない。
構造②
外国語対応者の重複
外国語対応できる人材自体が社内に1〜2名しかおらず、その人が同時に外国人の業務指示も行っている、というケースがほとんどです。
構造③
事業所ごとの担当者確保が難しい
自社支援では、特定技能外国人が就労する事業所ごとに1名以上の支援担当者を選任することが求められます(特定技能基準省令)。各事業所において、中立性を満たし、十分な支援を行える人材を確保する必要があり、複数事業所を運営する企業ではこの体制構築自体が論点になります。

この構造があるため、「自社支援できると思って準備を進めたが、要件確認の段階で断念した」というケースが実際にあります。コスト削減シミュレーションだけを見て決断する前に、自社の人員体制で要件を満たせるかの確認が不可欠です。

回っている自社支援の典型|専任部署を設けるパターン

では、自社支援が機能している会社はどんな体制をとっているのか。介護分野では、こういう体制を組む企業があります。

外国人支援専門の部署を立ち上げるパターン

受入規模が複数施設・数十名規模になると、外国人支援を専門に行う独立部署を立ち上げ、そこに専任の担当者を配置する企業が出てきます。この部署は通常以下のような特徴を持ちます。

  • 事業部門(介護現場)から組織的に独立しており、現場の指揮命令系統に属さない
  • 専任スタッフが外国人本人の窓口になり、定期面談・生活相談・行政手続き同行を担当
  • 外国語対応能力を持つスタッフを配置(多言語ニーズに応じて複数言語)
  • 採用から定着まで一貫して関与し、現場と外国人の橋渡し役を果たす

この体制であれば、支援担当者は組織上「現場の上司」ではないため、中立性要件をクリアできます。同時に、外国人本人にとっても「現場のしがらみとは別の相談先」が確保されるため、定着率や満足度の向上にもつながりやすくなります。

このパターンが成立する条件

専任部署型が機能するには、いくつか前提条件があります。

  • 受入人数が一定規模以上(目安として10名以上)あり、専任配置に経済合理性がある
  • 経営層が外国人雇用を「一過性の人手不足対策」ではなく「継続的な戦略」と位置付けている
  • 専任スタッフを採用・育成する予算と時間がある
  • 多言語対応の体制を社内で(または委託で)構築できる

言い換えると、受入数が数名規模で、経営層のコミットがそこまで強くない場合、専任部署型は現実的ではありません。その場合は、登録支援機関への委託を継続するほうが安全な選択になります。

自社支援セルフチェック|要件を満たせるか

自社支援への切り替えを検討するなら、最初にチェックすべきは「要件を満たせるか」です。コスト試算より先にここを確認してください。

必須要件チェックリスト

要件確認ポイント
過去2年の受入実績中長期在留者の受入れ・管理実績が過去2年間にあるか。実績がない場合も代替要件で対応可能なケースあり。
支援責任者の選任役員または相当の者から選任できるか。支援業務全体を統括する立場として選任が必要。
支援担当者の選任各事業所に1名以上の支援担当者を選任できるか(常勤であることが望ましいとされています)。中立性要件もあわせて満たす必要があります。
支援担当者の中立性支援担当者が外国人を直接指揮命令する立場にないか。これが最も詰まりやすいポイント。
外国語対応能力外国人が十分理解できる言語で支援できる体制があるか。本人の母国語または共通言語(英語等)。

とくに注意したい論点

  • 「中立性」は形式論ではなく実質判断:肩書きを変えても、実態として外国人を指揮命令する立場にあれば認められません
  • 事業所ごとの配置:自社支援では外国人が就労する事業所ごとに1名以上の支援担当者選任が必要です
  • 支援責任者と支援担当者の兼任は可能ですが、双方の基準を1人で満たす必要があります
  • 個別ケースの判断に迷う場合は、管轄の地方出入国在留管理局へ事前相談することをお勧めします

「自社支援にできない」場合の現実的な選択肢

セルフチェックの結果、自社支援が現実的でないとなった場合、選択肢は3つあります。

選択肢A
現在の登録支援機関を継続
対応や費用に大きな不満がなければ、無理に変更せず継続するのが安全。月額委託費は発生し続けるが、運用負荷は最小。
選択肢B
登録支援機関の見直し
対応速度・料金・行政書士法対応に不満がある場合、より自社にフィットする支援機関への変更を検討。業種特化型を選ぶと品質が上がりやすい。
選択肢C
採用拡大して専任部署型へ
中長期的に外国人雇用を拡大する方針なら、受入規模を増やしたうえで専任部署型に移行する選択肢も。ただし2〜3年スパンの戦略判断。

コスト比較|本当に「丸ごと得」なのか

自社支援の経済性を語るとき、月額委託費の削減額だけが強調されがちですが、実際には自社運営に伴うコストも発生します。総コストでの比較が必要です。

コスト試算の例(5名雇用の場合)

費目登録支援機関に委託自社支援+行政書士
支援委託費年180万円
(月3万円×5名×12か月)
0円
専任スタッフ人件費(按分)年60〜120万円
(業務工数に応じて)
通訳・教材・面談記録管理委託費に込み年20〜40万円
行政書士費(更新申請)年25〜35万円
(一般相場:5〜7万円×5名)
年25〜35万円
(一般相場:5〜7万円×5名)
年間合計(概算)205〜215万円105〜195万円

※ 2026年1月施行の行政書士法改正により、登録支援機関に委託している場合でも、ビザ申請書類の作成は行政書士に直接依頼する必要があります。そのため、行政書士費用は委託・自社支援いずれのパターンでも発生します。なお当事務所の更新料金は1名30,000円〜のため、上記の行政書士費はおおむね半額(年15万円前後)に圧縮可能です。

1年単位ではなく「累積」で見る経済合理性

上記の年間試算では、1年単位で見た場合の差額は10〜110万円程度です。「10名以上の規模になれば1年単位でも経済合理性が明確に出る」のが一般的で、3〜5名規模だと専任配置のコスト負担が重く、初年度は損益分岐点ぎりぎりになることもあります。

ただし、自社支援は継続するほど経済合理性が高まる構造です。委託費(年180万円)が完全になくなる一方で、専任スタッフの教育投資・体制構築コストは初期に集中するため、2年目以降は固定的な人件費だけが残ります。

累積期間登録支援機関に委託自社支援+行政書士累積差額
1年目205〜215万円105〜195万円10〜110万円
3年累積615〜645万円295〜495万円
(2年目以降は人件費中心)
120〜350万円
5年累積1,025〜1,075万円485〜795万円230〜590万円

5名規模でも、5年スパンで見れば200〜600万円規模の削減が見込める計算になります。短期の損益だけで判断せず、外国人雇用を中長期で続ける方針かどうかを軸に検討するのが妥当です。

コスト以外の論点

自社支援に切り替えると、以下のような副次効果も生じます(プラス・マイナス両面)。

  • 外国人本人との直接コミュニケーションが増え、定着率が向上しやすい
  • 面談・相談記録のノウハウが社内に蓄積される
  • 行政手続き・労務管理に関する社内知見が深まる
  • 支援業務の負荷が社内に発生する(年間で数百時間規模)
  • 支援義務違反のリスクは企業が直接負う
  • 定期届出・随時届出の作成義務も自社で対応する必要がある
ADVISORY SERVICE

特定技能内製化支援

登録支援機関への委託からの脱却を、戦略的に伴走する専門サービス

本記事をお読みいただいて、「自社支援にチャレンジしたい。ただし要件確認・体制設計・運用立ち上げまで、専門家に伴走してほしい」とお考えの企業様向けに、当事務所では専門のサービスをご用意しています。

このサービスは、通常のビザ申請業務とは性質が異なる専門サービスとして位置付けています。年間300件超の申請業務で得た運用要領の深い理解と、自社支援の現場観察、加えて担当者がもともと経営コンサルティングを生業としてきた経験を組み合わせ、「自社支援を本気で機能させる」ことだけを目的に設計しています。

このサービスが向いている企業

  • 特定技能外国人の受入れが10名以上、または今後10名規模まで拡大予定
  • 登録支援機関への委託費(年間数百万円〜)の見直しを経営課題と認識している
  • 外国人雇用を一過性ではなく、中長期の戦略として位置付けている
  • 専任の支援部署または専任担当者を新設する経営判断ができる
  • 移行プロセスを「自前で手探り」ではなく「専門家伴走」で進めたい

提供する内容

要件診断
中立性・常勤・実績・外国語対応など、自社支援の各要件を満たせるかを精緻に診断。可否判定書を発行。
体制設計
支援責任者・担当者の選任プラン、組織上の独立性確保、業務分担の設計まで。
支援計画書の作成
自社支援用に支援計画書を再設計。10項目の支援内容を運用要領に整合させる。
担当者向け研修
新任の支援担当者・支援責任者向けに、実務研修を実施。面談技法、記録作成、緊急時対応まで。
入管届出代行
支援委託契約に係る届出(参考様式第3-2号)、支援計画変更届などの作成・提出を代行。
移行後フォロー
運用開始後の継続的な相談対応。定期届出のチェック、問題発生時のアドバイスなど。
料金:要見積り 受入規模・事業所数・既存契約の状況により変動するため、初回相談で詳細をお伺いした上で個別にお見積もりいたします。

本サービスは少数の企業様に深く伴走する設計のため、同時受付件数を限定しています。お問い合わせフォームより「特定技能内製化支援について」とご記載のうえご連絡ください。

当事務所のサービス範囲

当事務所のサービスは、特定技能ビザの申請・届出を主軸とし、必要に応じて特定技能内製化支援もご提供しています。

標準サービス(ビザ申請・届出)

  • 特定技能ビザの認定・変更・更新申請
  • 支援計画書の作成・確認
  • 定期届出書の作成・提出代行
  • 随時届出(雇用契約変更等)の作成
  • 申請に関する初回スクリーニング相談(無料)

※ 自社支援への移行を本格的に支援する「特定技能内製化支援」については、前章の専用セクションをご参照ください。

料金

特定技能(認定・変更)
50,000円〜
税抜/1名
特定技能(更新)
30,000円〜
税抜/1名
定期届出代行
30,000円〜
税抜/3名まで
特定技能内製化支援
要見積り
専門サービス

「初回スクリーニング相談(60分)」は無料です。お電話やフォームから内容をお伺いし、当事務所のどのサービス枠に該当するかをまずご案内します。

特定技能ビザ申請・定期届出のご依頼

申請可否の事前確認、概算費用のご案内まで、初回相談(60分)は無料です。

ADVISORY SERVICE

特定技能内製化支援のご相談

本格的な自社支援移行をご検討の企業様向け、伴走型の専門サービス。受付件数を限定しております。

内製化支援を相談する

この記事のまとめ

  • 自社支援は「コストが浮く」より先に「要件を満たせるか」の確認が必要
  • 最大の壁は支援担当者の中立性。中小企業ほどここで詰まりやすい
  • 回っている自社支援の典型は専任部署を設けるパターン。受入規模10名以上が目安
  • セルフチェックは中立性、常勤、過去実績、外国語対応、事業所ごとの配置の5項目
  • 自社支援にできない場合は、現状継続・支援機関見直し・将来的な専任部署化の3択
  • 当事務所では特定技能ビザの申請・届出に加え、本格的な体制づくりをご検討の企業様向けに特定技能内製化支援もご提供しています
本記事は2026年5月時点の入管法、特定技能制度の運用要領に基づく一般的な情報提供を目的としています。記載した「介護分野で見られる体制」等は業界全般の傾向に関する観察であり、特定の企業・人物を指すものではありません。自社支援の可否や進め方は各企業の状況により大きく異なりますので、具体的な検討にあたっては必ず専門家にご相談ください。