特定技能の自社支援、本当に得か損か|年間180万円の委託費を見直す前にチェックすべき5項目
特定技能の自社支援、本当に得か損か|委託費を見直す前にチェックすべき5項目
自社支援に切り替えれば、登録支援機関への月額委託費はなくなります。5名雇用なら年180万円規模です。ところが実際に進めようとすると、コストではなく要件で止まる会社が少なくありません。この記事では、自社支援が回っている企業と断念した企業の違いを、要件・体制・総コストの3点から整理します。
この記事のポイント
実務で最も詰まるのは、コスト計算でも制度知識でもなく支援担当者の人選です。運用上、支援担当者は特定技能外国人を監督する立場にない者であることが望ましいとされています。中小規模の企業では、外国人に業務指示を出す人と、支援担当者にできる人が重なってしまいます。
「受入れ実績がないと自社支援はできない」は誤解です。過去2年間の受入れ実績があるルートのほかに、生活相談業務の経験者を選任するルートがあり、実績がなくても要件を満たせます。実績がないことを理由に委託を続けているなら、確認する価値があります。
専任担当者を置く前提では、受入れ10名以上が経済合理性の目安です。3名から5名の規模では初年度の差額がほとんど出ないこともあります。ただし委託費は毎年発生し続けるため、継続方針なら累積で差が開きます。
自社支援とは|委託しないという選択肢
特定技能1号の外国人を受け入れる企業には、1号特定技能外国人支援計画を作成し、これに基づいて支援を実施する義務があります。支援の実施方法には、登録支援機関にその全部を委託する方法と、企業自身が実施する方法(自社支援)があります。
義務的支援には、入国前の事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居の確保と生活に必要な契約の支援、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習の機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、そして3か月に1回以上の定期面談が含まれます。これらは委託しても自社で行っても、実施義務そのものは受入れ企業にあります。
自社支援を選ぶと、登録支援機関への月額委託費が発生しません。委託費は1名あたり月2万円台から4万円程度が一般的で、5名雇用なら年180万円規模になります。ここだけ見ると切り替える理由は十分にあります。
問題は、多くの企業が金額の試算から検討を始めてしまうことです。先に確認すべきは要件を満たせるかどうかで、順序を逆にすると準備を進めた末に断念することになります。
自社支援の要件|3つのルートと担当者の選任
自社支援を行うには、支援体制に関する基準を満たす必要があります。ここで誤解が多いのが「過去2年間の受入れ実績が必須」という理解です。実際には、次の3つのルートのいずれかを満たせばよい建て付けになっています。
ルート① 受入れ実績
過去2年間に中長期在留者の受入れまたは管理を適正に行った実績がある場合。受け入れた中長期在留者のリストや、支援責任者の履歴書などを提出します。
ルート② 生活相談業務の経験者を選任
過去2年間に中長期在留者の生活相談業務に従事した経験を持つ役員または職員を、支援責任者・支援担当者として選任する場合。自社に受入れ実績がなくても、経験のある人材を配置すれば要件を満たせます。外国人雇用の経験者を採用して体制を作るケースがこれに当たります。
ルート③ 同程度の能力が認められる場合
①②と同程度に支援業務を適正に実施できると認められる場合。説明書と立証資料の提出が必要になり、個別の判断となるため事前相談を前提に検討します。
支援責任者と支援担当者の選任
いずれのルートでも、支援責任者と支援担当者の選任が必要です。支援責任者は支援業務全体を統括する立場、支援担当者は実際に支援を実施する立場です。兼任も可能とされていますが、1人で両方の基準を満たす必要があります。また、外国人が十分に理解できる言語で支援できる体制も要件になります。事業所単位での配置の考え方は運用要領で整理されているため、複数の事業所で受け入れる場合は申請前に確認してください。
必要書類の全体像と、支援体制に関する書類がどこに含まれるかは、特定技能の必要書類チェックリストで第1表・第2表・第3表の構造から整理しています。
実務で最も詰まる論点|支援担当者の中立性
形式的な要件を満たせても、実務で最後に残るのが支援担当者の人選です。
運用上どう扱われているか
支援担当者については、特定技能外国人を監督する立場にない者であることが望ましいとされています。外国人本人が悩みや苦情を率直に伝えられる関係を確保するためです。法令が形式的に禁止しているわけではありませんが、直接の上司が支援担当者を兼ねている体制は、支援計画の実効性について説明を求められる可能性があります。要件そのものではなく、審査上のリスクと実務上の推奨として理解するのが正確です。
中小規模の企業でここが問題になる理由
| 構造 | 何が起きるか |
|---|---|
| 人事責任者が現場責任者を兼ねている | 社員数が少ない企業では、人事を担う人と現場で外国人に指示を出す人が同じ、または近い関係になります。中立性のある別の人を立てる余裕がありません。 |
| 外国語対応できる人が限られている | 社内に外国語対応できる人材が1〜2名しかおらず、その人が同時に業務指示も行っているケースが多くあります。 |
| 事業所ごとの人材確保 | 複数の事業所で受け入れる場合、それぞれで支援を行える人材を確保する必要があり、体制構築自体が論点になります。 |
この構造があるため、コスト削減の試算だけを見て準備を進め、体制の確認段階で断念するケースが出てきます。人選を先に固めてから、コストを計算する順序にしてください。
回っている自社支援の典型|専任部署型
自社支援が機能している企業には共通した体制があります。受入れ規模が複数拠点・数十名になると、外国人支援を専門に行う独立した部署を設け、専任の担当者を置く形が見られます。
専任部署型の特徴
事業部門から組織的に独立しており、現場の指揮命令系統に属さない。専任スタッフが外国人本人の窓口になり、定期面談・生活相談・行政手続きへの同行を担当する。外国語対応できるスタッフを配置し、多言語のニーズに応じて複数名を置く。採用から定着まで一貫して関与し、現場と外国人の間に立つ。
この体制であれば、支援担当者は組織上「現場の上司」ではないため、中立性の論点をクリアできます。外国人本人にとっても現場とは別の相談先が確保されるため、定着の面でも機能しやすくなります。
専任部署型が成立する前提
| 前提 | 内容 |
|---|---|
| 受入れ規模 | 専任配置に経済合理性が出る人数(目安として10名以上) |
| 経営の位置づけ | 外国人雇用を一過性の人手不足対策ではなく、継続的な方針として扱っている |
| 採用と育成の余力 | 専任スタッフを採用・育成する予算と時間がある |
| 言語対応 | 多言語対応の体制を社内または外部との組み合わせで構築できる |
数名規模では専任部署型は現実的ではありません
受入れが数名規模で、経営としてのコミットもそこまで強くない場合、専任部署を設ける形は成立しません。この場合は登録支援機関への委託を継続する方が、運用リスクを抱えずに済みます。自社支援は「できるならやるべきもの」ではなく、規模と方針が揃ったときに選べる選択肢です。
セルフチェック5項目
切り替えを検討するなら、コスト試算より先にこの5項目を確認してください。
| 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 1. 支援体制のルート | 受入れ実績ルート、生活相談業務の経験者を選任するルート、同程度の能力が認められるルートのいずれで満たすか。実績がなくても②で対応できる場合があります。 |
| 2. 支援責任者の選任 | 役員または相当の立場の者から選任できるか。支援業務全体を統括する役割です。 |
| 3. 支援担当者の選任 | 実際に支援を実施する担当者を置けるか。事業所ごとの配置の考え方も確認します。 |
| 4. 担当者の中立性 | その担当者が外国人を直接指揮命令する立場にないか。実務上ここが最も詰まります。 |
| 5. 言語対応 | 外国人が十分に理解できる言語で相談対応できる体制があるか。母国語または共通言語です。 |
注意しておきたい点
中立性は肩書きではなく実態で見られます。役職名を変えても、実際に業務指示を出す立場であれば意味がありません。また支援責任者と支援担当者を兼任させる場合は、両方の基準を1人で満たす必要があります。個別の判断に迷う場合は、管轄の地方出入国在留管理局への事前相談をおすすめします。判断を誤ったまま申請すると、追加資料の提出を求められて審査が長引きます。
自社支援にできない場合の選択肢
セルフチェックの結果、自社支援が現実的でないと判断した場合の選択肢は3つです。
A 現在の登録支援機関を継続する
対応や費用に大きな不満がなければ、無理に変えないのが安全です。月額委託費は発生し続けますが、運用の負荷は最小で、支援義務違反のリスクも抑えられます。
B 登録支援機関を見直す
対応速度、費用、行政書士法への対応方針に不満がある場合、自社に合う支援機関への変更を検討します。分野に特化した機関を選ぶと支援の質が上がりやすくなります。変更には支援委託契約や支援計画に関する届出が必要です。
C 受入れを拡大して専任部署型へ移行する
中長期で外国人雇用を拡大する方針なら、規模を増やしたうえで専任部署型に移る道があります。ただし2〜3年スパンの経営判断になります。
委託費の内訳は必ず確認してください
AでもBでも、支援委託費の内訳に在留資格の申請書類の作成費が含まれていないかを見ておく必要があります。報酬を得て申請書類を作成できるのは行政書士または弁護士であるため、委託費に含まれる形は行政書士法に抵触するおそれがあります。内訳の考え方は特定技能を行政書士に依頼する費用で整理しています。
総コスト比較|本当に得なのか
自社支援の経済性は、委託費の削減額だけでは判断できません。自社運営に伴うコストが発生するため、総額で比較する必要があります。
5名雇用の場合の試算
| 費目 | 登録支援機関に委託 | 自社支援 |
|---|---|---|
| 支援委託費 | 年180万円(月3万円×5名×12か月) | 0円 |
| 専任スタッフ人件費(按分) | — | 年60万円〜120万円(業務工数に応じて) |
| 通訳・教材・記録管理 | 委託費に含まれることが多い | 年20万円〜40万円 |
| 行政書士報酬(更新申請) | 年15万円(当事務所30,000円×5名) | 年15万円(同) |
| 年間合計 | 195万円 | 95万円〜175万円 |
行政書士報酬はどちらのパターンでも発生します
2026年1月施行の改正行政書士法により、在留資格の申請書類の作成は、報酬を得て行う場合は行政書士または弁護士の業務であることが明確になりました。登録支援機関に支援を委託している場合でも、申請書類の作成は行政書士に直接依頼する形になるため、この費目は委託・自社支援のいずれでも発生します。上の表では当事務所の更新料金(1名30,000円・税別)で計算しています。
この試算は前提を置いた概算です
専任スタッフの人件費按分と、通訳・教材・記録管理の費用は、受入れ人数、業務の内容、社内の既存体制によって大きく変わります。上の金額は当事務所が実務で見てきた範囲での目安であり、統計調査に基づくものではありません。実際の判断は自社の人件費単価と想定工数で計算してください。
1年ではなく累積で見る
1年で見た差額は、5名規模では20万円から100万円程度です。3名から5名の規模だと専任配置の負担が重く、初年度はほとんど差が出ないこともあります。
ただし構造として、委託費は毎年同額が発生し続ける一方、体制構築のコストは初期に集中します。2年目以降は固定的な人件費が残るだけになるため、外国人雇用を継続する方針であれば、累積では差が開いていきます。逆に、受入れを数年で終える見込みなら、委託を続けた方が合理的です。
判断の軸は、短期の損益ではなく外国人雇用を何年続ける方針かです。ここが定まっていない段階での切り替えは、体制構築のコストだけが残るリスクがあります。
コスト以外の増減
| プラスに働く面 | 負担が増える面 |
|---|---|
| 外国人本人との直接のやり取りが増え、定着に向けた対応が取りやすくなる。面談や相談対応の知見が社内に蓄積する。労務管理の理解が深まる。 | 支援業務の工数が社内に発生する。支援義務違反のリスクを企業が直接負う。定期届出・随時届出への対応も自社で管理する必要がある。 |
届出の様式と記載ルールは特定技能の定期届出を徹底解説で解説しています。受入れ全体の費用構造は特定技能外国人を一人雇用するのにかかる総費用で整理しています。
自社支援に切り替えられるか、要件から確認したい方へ
受入れ人数、事業所数、社内の人員体制をお伺いして、どのルートで要件を満たせるか、支援担当者を誰に置けるかを整理してご案内します。現在の支援委託契約書や見積書を見ながら内訳を確認するご相談にも対応します。
特定技能内製化支援
登録支援機関への委託からの移行を、要件診断から運用立ち上げまで伴走する専門サービス
この記事をお読みになって「自社支援に切り替えたい。ただし要件確認から体制設計、運用の立ち上げまで専門家に伴走してほしい」とお考えの企業様向けに、通常の申請業務とは別のサービスをご用意しています。
累計500件超の申請業務で蓄積した運用要領の理解と、自社支援を運営している企業の体制観察、加えて経営コンサルティングの実務経験を組み合わせ、自社支援を機能させることに絞って設計しています。
このサービスが向いている企業
- 特定技能外国人の受入れが10名以上、または今後10名規模まで拡大する予定がある
- 支援委託費の見直しを経営課題として認識している
- 外国人雇用を一過性ではなく中長期の方針として位置づけている
- 専任の支援部署または専任担当者を新設する経営判断ができる
- 移行を手探りではなく専門家の伴走で進めたい
提供する内容
少数の企業様に深く伴走する設計のため、同時受付件数を限定しています。お問い合わせフォームより「特定技能内製化支援について」とご記載のうえご連絡ください。
よくある質問
料金・サービス範囲
当事務所は特定技能の申請・届出を主軸とし、本格的な体制づくりをご検討の企業様には内製化支援を別枠でご提供しています。
| サービス | 料金(税別) |
|---|---|
| 在留資格認定証明書交付申請/在留資格変更許可申請 | 50,000円/1名 |
| 在留期間更新許可申請 | 30,000円/1名 |
| 定期届出の作成(3名まで) | 30,000円 |
| 特定技能内製化支援 | お見積り |
| 初回相談 | 無料 |
申請書類一式の作成、申請取次、追加資料への対応が料金に含まれます。許可時に納付する手数料(窓口申請6,000円、オンライン申請5,500円)等の実費は別途です。在留許可手数料については改定の方向が示されている段階のため、申請時点の金額をご案内します。定期届出が4名以上の場合は件数に応じてお見積りします。支援計画書の作成、随時届出の作成にも対応します。税証明書・源泉徴収票の取得は申請人ご本人に行っていただきます。
この記事のまとめ
- 自社支援はコスト試算より先に要件を満たせるかの確認から始める
- 要件は受入れ実績・生活相談業務の経験者選任・同程度の能力の3ルート。実績がなくても満たせる
- 実務で最も詰まるのは支援担当者の中立性。要件そのものではなく審査上のリスクとして扱う
- 機能している体制の典型は専任部署型。専任配置の目安は受入れ10名以上
- 5名規模の年間差額は20万円〜100万円程度。判断軸は外国人雇用を何年続けるか
- 行政書士報酬は委託・自社支援のどちらでも発生する
- 自社支援にできない場合は、現状継続・支援機関の見直し・将来的な専任部署化の3択
この記事の情報について
本記事は2026年7月時点の入管法および特定技能制度の運用要領に基づく一般的な情報提供です。支援体制に関する要件の適用、中立性の評価は個別の事情により判断が分かれます。記載した専任部署型の体制は業界全般の傾向に関する観察であり、特定の企業を指すものではありません。コスト試算は一定の前提を置いた概算であり、統計調査に基づくものではありません。制度・様式・手数料は随時改定されるため、実際の検討にあたっては申請時点の最新の法令・告示・通知および出入国在留管理庁の公表内容をご確認のうえ、管轄の地方出入国在留管理局または専門家にご相談ください。



