1. 解禁の背景と概要
日本の介護現場では深刻な人材不足が続いており、特に訪問介護サービスにおいては人手不足が深刻な状況です。高齢化社会の進展に伴い、介護需要はさらに増加する見込みで、外国人介護人材の活用は避けられない状況となっています。
これまで特定技能1号の在留資格を持つ外国人は、介護施設での就労は認められていましたが、訪問介護サービス(利用者の自宅で行われる介護)への従事は制限されていました。この制限が、2025年4月から解除されることになりました。
これまでの制限
特定技能外国人の介護分野における業務範囲は、訪問系サービスを除く施設介護に限定されていました。これは、訪問介護が利用者の自宅で1対1で行われる特性上、高いコミュニケーション能力や文化理解が必要であるとの考えからでした。
2. 訪問介護サービス解禁の詳細
解禁の時期と対象サービス
特定技能外国人の訪問介護サービスへの従事は、2025年4月21日に解禁されました。対象となるサービスは以下の通りです
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 夜間対応型訪問介護
- 定期巡回・随時対応サービス
対象となる在留資格
訪問介護サービスに従事できる在留資格は以下の通りです
在留資格 | 解禁日 | 備考 |
---|---|---|
特定技能1号(介護) | 2025年4月21日 | 最長5年まで |
技能実習 | 2025年4月1日 | 育成就労へ移行 |
EPA介護福祉士候補者 | 2025年4月1日 | - |
在留資格「介護」 | 制限なし | 介護福祉士資格取得者 |
※注意:EPAや在留資格「介護」は従来から基本的な制限はありませんでしたが、特定技能と技能実習については今回の制度改正によって初めて訪問介護への従事が認められることになりました。
3. 外国人材に求められる要件
訪問介護サービスに従事する特定技能外国人には、従来の要件に加えて追加要件が求められます。
通常の特定技能(介護)の基本要件
- 介護技能評価試験の合格
- 日本語能力試験(JLPT N4以上)またはJFT-Basic A2の合格
- 介護日本語評価試験の合格
- 一定年齢以上(一般的に17歳以上、インドネシア国籍は18歳以上)
訪問介護に必要な追加要件
介護職員初任者研修課程等の修了
訪問介護に従事するには、介護職員初任者研修課程を修了していることが必要です。
介護事業所等での実務経験
原則として、介護事業所等での実務経験が1年以上あることが求められます。
訪問介護等の業務の基本事項等に関する研修受講
事業所が実施する訪問介護の基本事項に関する研修を受講する必要があります。
【要件比較表】施設介護と訪問介護
要件類型 | 一般の特定技能介護(施設) | 訪問介護の特定技能 |
---|---|---|
必須介護資格 | なし(特定技能評価試験等に合格) | 介護職員初任者研修修了 |
実務経験 | なし | 施設介護での1年以上の実務経験 |
特有研修 | なし | 訪問介護の基本に関する研修 |
4. 受け入れ事業者の要件
訪問介護サービスで特定技能外国人を受け入れる事業者には、一般的な要件に加えて、特有の遵守事項が定められています。
一般的な受け入れ要件
- 日本人と同等以上の賃金・労働条件の提供
- 直接雇用(派遣は不可)
- 特定技能外国人の人数は日本人常勤介護職員の総数を超えないこと
- 介護分野特定技能協議会への加入
- 労働関連法規、社会保険、税法などの遵守
訪問介護サービスにおける特有の遵守事項
- 研修の実施義務:外国人介護人材に対し、訪問介護等の業務の基本事項等に関する研修を行うこと
- OJTの実施義務:外国人介護人材が訪問介護等の業務に従事する際、一定期間、責任者等が同行する等により必要な訓練を行うこと
- キャリアアップ計画の作成:外国人介護人材に対し、訪問介護等における業務の内容等について丁寧に説明を行いその意向等を確認しつつ、キャリアアップ計画を作成すること
- ハラスメント防止対策:ハラスメント防止のために相談窓口の設置等の必要な措置を講ずること
- 環境整備:外国人介護人材が訪問介護等の業務に従事する現場において不測の事態が発生した場合等に適切な対応を行うことができるよう、情報通信技術の活用を含めた必要な環境整備を行うこと
重要:上記の5つの遵守事項を適切に履行できる体制・計画等を有することについて、事前に巡回訪問等実施機関(国際厚生事業団)に必要な書類(「訪問系サービスの要件に係る報告書」)を提出する必要があります。
また、利用者や家族に対して外国人介護士が訪問介護サービスを提供する前に説明を行い、理解を得ることも重要です。
5. 訪問介護解禁のメリット・デメリット
メリット
- 深刻な人材不足の解消につながる
- 最大5年間の在留資格で長期的な雇用が可能
- 若い外国人材の参入による介護現場の活性化
- 多様な文化背景を持つスタッフによるサービスの多様化
- 在宅介護の充実により要介護者の選択肢が広がる
デメリット・課題
- 文化や価値観の違いから利用者とのトラブルのリスク
- 日本語能力の不足によるコミュニケーション上の課題
- 訪問介護の特性(1対1での対応)に起因する難しさ
- 事業者側の受け入れ体制整備の負担増
- 緊急時の対応における言語的障壁の可能性
これらのデメリットを最小化するためには、丁寧な研修とサポート体制の構築が不可欠です。特に、日本語学習の支援や日本の生活習慣に関する教育、定期的なフォローアップが重要となります。
6. 特定技能外国人の採用手順
訪問介護分野で特定技能外国人を採用するための基本的な手順は以下の通りです。
支援計画書の作成
特定技能外国人の受け入れには、支援計画書の作成が義務化されています。
「介護分野における特定技能協議会」の構成員になる
特定技能外国人を受け入れるには、協議会の構成員になる必要があります。
訪問系サービスの要件に係る報告書の提出
外国人に訪問介護サービスを担当させるための体制・計画を記載した報告書を国際厚生事業団に提出します。
雇用契約の締結
特定技能雇用契約の基準を満たした雇用契約を結びます。
在留資格の申請
必要書類を揃えて特定技能の在留資格を申請します。
受け入れ後の支援体制の整備
外国人材が訪問介護業務を適切に行えるよう、研修やOJT、コミュニケーション支援などを実施します。
登録支援機関の活用
外国人材のサポートや手続きの負担軽減のため、登録支援機関に業務を委託することも検討できます。登録支援機関は、在留資格申請のサポートから来日後の生活支援まで、様々な支援業務を代行してくれます。
7. まとめと今後の展望
2025年4月から解禁された特定技能「介護」の訪問介護サービスへの参入は、深刻な人材不足に悩む介護業界にとって大きな変化をもたらします。特定技能外国人材が訪問介護の分野で活躍することで、在宅介護の質の向上と持続可能性の確保が期待されます。
しかし、その実現には事業者側の適切な受け入れ体制の整備と、外国人材へのきめ細かなサポートが不可欠です。特に、日本語能力の向上支援や文化的な理解促進、技能向上のための継続的な教育が重要となります。
今後は、特定技能から介護福祉士資格の取得を目指すキャリアパスの整備や、多文化共生の視点を取り入れた介護現場の構築が課題となるでしょう。在留資格「介護」を取得すれば家族帯同も可能になるため、長期的な人材確保の観点からも重要です。
今後の展望
- 特定技能外国人の訪問介護参入による人材確保の進展
- 特定技能から介護福祉士への資格取得支援の重要性の高まり
- ICTを活用した訪問介護業務のサポートシステムの普及
- 多言語対応や文化的配慮を取り入れた介護サービスの拡大
- 外国人介護人材の定着促進のための環境整備の重要性
訪問介護における特定技能外国人の受け入れは、日本の介護現場に新たな可能性をもたらす一方で、事業者側には適切な準備と対応が求められます。この制度改正を効果的に活用するためには、最新の情報収集と専門家のサポートを積極的に活用することをお勧めします。