その特定技能ビザ申請、違法かも?改正行政書士法が問うコンプライアンスと罰則リスク

【企業・登録支援機関向け】その特定技能ビザ申請、違法かも?改正行政書士法が問うコンプライアンスと罰則リスク

【企業・登録支援機関向け】その特定技能ビザ申請、違法かも?
改正行政書士法が問うコンプライアンスと罰則リスク

読了時間:約15分 | 2025年6月21日更新

この記事を読むとわかること

  • 登録支援機関によるビザ申請代行がなぜ「違法」なのか、その法的根拠
  • 【2026年施行】改正行政書士法で何が変わり、罰則はどう強化されるのか
  • 「コンサル料」「年会費」名目での申請代行が明確に違法となる理由
  • 違法行為に加担した場合に「受入れ企業」が負う重大なリスク
  • 法令遵守とトラブル回避のための具体的なアクションプランとチェックリスト

そのビザ申請、本当に大丈夫ですか?

「登録支援機関にビザ申請も『丸投げ』しているが、法的に問題ない?」

「『支援費用』の中に、申請書類作成のサポートも含まれているけど…」

「他の支援機関もやっているから、うちも大丈夫だと思っていた…」

「もし違反だと指摘されたら、会社としてどんな罰則があるの?」

「改正行政書士法で、私たちの責任が重くなるって本当?」

1. はじめに:水面下で広がる特定技能ビザ申請の法的リスク

行政書士しかま事務所の鹿間英樹です。当事務所では、特定技能制度をはじめとする在留資格に関する業務を日々行っております。特定技能制度の健全な発展は、制度に関わる全ての関係者の適法な業務運営によって実現されるべきものです。

特定技能制度において、登録支援機関は外国人材の生活支援や職場への定着支援など、制度の運用上、重要な役割を担っています。一方で、登録支援機関が行える業務には行政書士法に基づく明確な制限があることを、正確にご認識いただく必要があります。

東京都行政書士会が実態調査に着手

令和6年8月、東京都行政書士会が「特定技能制度」における登録支援機関による申請書類作成の実態調査を開始しました。この調査は、一部の登録支援機関による行政書士法違反の疑いがある書類作成代行が水面下で横行している現状を受けてのものです。

調査では以下の点が重点的に確認されています

  • 登録支援機関が「特定技能」在留資格の申請手続きを「有償」で行っているか
  • 在留資格申請書類を「行政書士でない者」が作成しているか
  • これらの行為の具体的な実施方法と料金体系

重要:登録支援機関が行政書士を雇って申請することも違法

「うちは行政書士を雇っているから大丈夫」と考えている登録支援機関が多く見受けられますが、これも明確な違法行為です。行政書士法は「他人の依頼を受けて報酬を得て」行政書士業務を行うことを禁じており、登録支援機関が顧客から報酬を得て、その一部を行政書士に支払って申請業務を行わせることは、実質的に無資格者による業務代行にあたります。

適法な方法は、企業が直接行政書士に依頼することのみです。登録支援機関が間に入って申請業務を「仲介」や「代行」することは、どのような名目や方法であっても違法となります。

この問題は、登録支援機関だけでなく、依頼した「受入れ企業」をも重大な法的リスクに晒すものです。令和8年1月1日に施行される改正行政書士法により、従来「グレーゾーン」と呼ばれてきた行為も、明確に違法行為として厳格に処罰される時代が到来します。

本記事では、この構造的な問題と具体的な対策を、行政書士として責任を持って徹底解説いたします。

2. 【法的根拠】行政書士法が定める業務独占と、登録支援機関の業務範囲

行政書士法第3条(業務)

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とする。

  1. 官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合を含む。)の作成
  2. 権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)の作成
  3. 前二号に掲げる事務について相談に応ずること

この中で特に重要なのが「官公署に提出する書類の作成」です。在留資格認定証明書交付申請書、在留資格変更許可申請書、在留期間更新許可申請書などは、まさにこの「官公署に提出する書類」に該当します。

行政書士法第19条(業務制限)

「行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第3条に規定する業務を行うことができない。」

つまり、「他人の依頼を受けて」「業として」これらの書類作成を行うことは、行政書士の独占業務であり、行政書士または弁護士以外の者が行うことは法律で禁止されているのです。

登録支援機関の本来業務

一方、登録支援機関の業務は、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づく「支援計画」の作成と実施です。具体的には以下のような業務が中心となります

  • 1号特定技能外国人支援計画の作成
  • 生活オリエンテーション実施
  • 住居確保・生活に必要な契約支援
  • 日本語学習機会の提供
  • 相談・苦情対応
  • 定期的な面談実施

重要なのは、登録支援機関の業務範囲に在留資格申請の「代理」や「申請書類作成代行」は含まれていないということです。また、行政書士を雇用または委託して申請業務を行うことも、登録支援機関が報酬を得ている以上、違法行為となります。

3. 【最重要】2026年1月施行「改正行政書士法」で何がどう変わるのか?

令和8年1月1日施行の改正内容

2025年6月6日、参議院本会議において「行政書士法の一部を改正する法律」が可決・成立しました。この改正法は令和8年(2026年)1月1日から施行されます。

① 業務制限規定の明確化(第19条第1項改正)

現行法(第19条第1項)改正法(第19条第1項)
行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない。 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない。

改正の重要な意味

「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言の追加により、以下のような行為も明確に違法となります

  • 「コンサルティング料」「サポート料」「会費」などの名目での実質的な書類作成代行
  • 月額支援料に書類作成費用を含める「パッケージ料金」
  • 「無料」と称しながら他のサービス料金に上乗せする行為
  • 年会費や登録料などの名目で実質的に書類作成対価を得る行為
  • 登録支援機関が行政書士を雇用・委託して申請業務を行う行為

② 新たな罰則規定(第21条の2新設)

第21条の2(新設)

「第19条第1項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。」

これまで解釈の余地があった業務制限違反に対し、具体的な罰則が新設されました。この改正により、取り締まりが容易かつ厳格になります。

③ 法人処罰(両罰規定)の整備(第23条の3改正)

第23条の3(改正)

「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の刑を科する。

両罰規定の深刻な影響

登録支援機関の職員が行政書士法違反を犯した場合

  • 職員個人: 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
  • 登録支援機関(法人・個人事業主): 最大100万円の罰金刑

これは法人の社会的信用や事業継続に深刻な影響を与えます。

法改正の本質的な意味

この法改正により、「知らなかった」「他の支援機関もやっているから」「少額だから」「無料だから」「行政書士を雇っているから」という言い訳が一切通用しなくなります。組織としてのコンプライアンスが厳しく問われる時代の到来です。

4. 企業と外国人本人に及ぶ「本当のリスク」:知らなかったでは済まされない

受入れ企業のコンプライアンス・リスク

不法就労助長罪への抵触可能性

違法な手続きと知りつつ(または注意義務を怠り)関与した場合、出入国管理及び難民認定法第73条の2(不法就労助長罪)に問われる可能性があります。

  • 罰則: 3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科
  • 法人処罰: 300万円以下の罰金

今後の外国人雇用への悪影響

入管からの信頼を失うことで、将来のビザ申請(他の在留資格も含む)において厳しい審査を受ける可能性があります。これは企業の外国人材活用戦略に長期的な悪影響を与えます。

レピュテーションリスク

法令違反が公になった場合の企業イメージの毀損、取引先や金融機関からの信用失墜、優秀な人材の離職など、経営に与える打撃は計り知れません。

申請の信頼性と不許可リスク

専門家でない者が作成した申請書類は、以下の深刻な問題を抱えています

  • 法的要件の見落とし: 複雑な在留資格要件の正確な理解と適用ができない
  • 立証責任の不履行: 申請人の適格性を適切に立証できない書類構成
  • 整合性の欠如: 申請書と添付書類の論理的一貫性が取れていない
  • 不許可リスクの増大: 結果として申請の不許可率が著しく高くなる

外国人本人の深刻な不利益

キャリア・生活設計の破綻

不適切な申請による不許可は、外国人本人にとって取り返しのつかない損失をもたらします

  • 在留資格取得の機会喪失
  • 就労機会の逸失と経済的困窮
  • 家族との離別、子どもの教育機会への影響
  • 将来的な日本再入国の困難
  • 虚偽申請等への関与と見なされるリスク

5. 解決策は一つ:行政書士との「正しい連携」で実現する適法な外国人材活用

適法な役割分担による Win-Win の実現

この問題の根本的な解決策は、明確な役割分担と適法な連携です

登録支援機関

  • 支援計画の作成・実施
  • 生活支援・職場定着支援
  • 日本語学習機会の提供
  • 相談・苦情対応

行政書士

  • 申請書類の作成・チェック
  • 法的要件の判断・分析
  • 申請戦略の立案
  • 入管対応・書類補正

受入れ企業への提言

登録支援機関選択の新基準

登録支援機関を選ぶ際は、以下の点を必ず確認してください

  • 業務範囲の明確化: 「ビザ申請も全部やります」という支援機関は要注意
  • 行政書士との連携体制: 正式に提携し、業務を明確に分離している機関を選ぶ
  • 料金体系の透明性: 支援費用と申請費用が明確に区別されているか
  • コンプライアンス意識: 行政書士法の遵守について明確な方針を持っているか

こんな登録支援機関は危険

  • 「ビザ申請から支援まで全部コミコミで◯万円」
  • 「書類作成は無料サービスです」
  • 「うちは行政書士を雇っているから大丈夫」
  • 「他の支援機関もやっているから問題ない」
  • 「バレなければ大丈夫」

登録支援機関への提言

適法経営によるメリット

違法リスクを抱えて業務を行うのではなく、行政書士と連携することで以下のメリットが得られます

  • 法的リスクの完全回避: 刑事罰・行政処分のリスクから解放
  • 本来業務への集中: 支援の質向上により競争力強化
  • 顧客満足度向上: 専門家連携による成功率向上
  • 事業の持続性: 適法経営による長期的信頼獲得
  • 付加価値の創出: より安全で確実なサービス提供

6. 【実践】今すぐ確認すべきコンプライアンス・チェックリスト

企業向けセルフチェック

登録支援機関向けセルフチェック

緊急性の認識

改正行政書士法の施行まで残り僅かです。以下の対応を早急に実施してください

  1. 現状の業務プロセス見直し: 違反リスクのある業務の特定・排除
  2. 契約書・料金体系の改定: 適法な業務範囲への限定
  3. 行政書士との連携体制構築: 適切な専門家ネットワークの確保
  4. 職員教育の実施: コンプライアンス意識の徹底
  5. 顧客への説明: 変更内容の適切な周知

7. まとめ:法改正を機に、外国人雇用体制の総点検を

特定技能制度の健全な発展は、関係者全員が法令を正しく理解し、遵守することによって実現されます。令和8年1月1日施行の改正行政書士法は、無資格者による書類作成業務に対する規制を大幅に強化し、従来「グレーゾーン」とされてきた行為も明確に違法として処罰の対象とします。

この法改正は決して登録支援機関の活動を制限するものではありません。むしろ、それぞれの専門性を活かした適切な役割分担により、より質の高いサービス提供と外国人材の適正な受入れを実現するための基盤整備と考えるべきです。

適法な連携による Win-Win の実現

登録支援機関は支援業務の専門家として、行政書士は法務書類作成の専門家として、それぞれの専門性を活かした連携により、企業と外国人材の双方にとって最適なサービスを提供することが可能です。

  • 企業: 法的リスクの回避と確実な人材確保
  • 外国人材: 適切な手続きによる安定した在留資格取得
  • 登録支援機関: 本来業務への特化による競争力向上
  • 行政書士: 専門性を活かした価値提供

法改正を機に、自社の業務体制を見直し、コンプライアンスを徹底することが、長期的な信頼獲得と事業継続の基盤となります。適法な制度運用は、特定技能制度そのものの信頼性向上にも寄与し、結果として外国人材の受入れ環境改善につながるのです。

今こそ、外国人雇用体制の総点検を実施し、持続可能で適法な事業運営体制を構築する時です。

行政書士しかま事務所のコンプライアンス診断・適法化サポート

当事務所では、特定技能制度における受入れ企業および登録支援機関の皆様に対し、以下の専門的サポートを提供しております。

コンプライアンス診断

現在の業務フローの法的問題点を詳細に分析し、改善提案を行います。

適法業務フロー構築

改正法に対応した業務プロセスの設計・文書化をサポートします。

行政書士連携モデル

効率的で適法な専門家連携システムの構築をご提案します。

申請書類作成代行

適法で確実な在留資格申請書類の作成・申請代行を承ります。

こんなご相談にお応えします

  • 「自社の業務範囲はこれで問題ないか?」
  • 「改正行政書士法にどう対応すればいいか?」
  • 「行政書士とどう連携すればスムーズか?」
  • 「現在の契約書に法的問題はないか?」
  • 「東京都行政書士会の調査が心配…」
  • 「行政書士を雇っているが、これも違法?」

特定技能制度の適正な運用は、企業の信頼と外国人材の未来を守ります。

コンプライアンスに関するご相談は、ぜひ当事務所まで

行政書士しかま事務所 公式サイト

情報の時点: 2025年6月21日時点の法令・運用情報に基づいています。

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