「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務」ビザの違いとは? 人事・採用担当者向け徹底比較

「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務」ビザの違いとは? 人事・採用担当者向け徹底比較

【この記事でわかること】

  • 「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務」制度の根本的な違い
  • 単純労働の可否など業務範囲の違い
  • 求められる要件(学歴・経験・日本語能力)の違い
  • 企業側の義務的支援の有無と内容
  • 転職の自由度、家族帯同、永住可能性の違い
  • 企業にとってどちらの制度が適しているかの判断基準

はじめに:外国人材の採用と在留資格選択の重要性

深刻な人手不足に直面する日本企業にとって、外国人材の採用は重要な選択肢となっています。しかし、「どの在留資格で受け入れるべきか」という判断は、多くの人事担当者様にとって頭を悩ませる問題です。

外国人材を雇用する際、主要な選択肢として「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」の二つの在留資格があります。両者は制度の目的、対象となる業務内容、求められる要件、企業側の義務など、多くの点で異なります。

本記事では、これらの違いを徹底的に比較・解説し、貴社に最適な選択をするための判断材料を提供します。

1. 「特定技能」と「技人国」の制度目的と背景

1-1. 「特定技能」制度の目的

「特定技能」は、人手不足の解消を主な目的として2019年4月に創設された比較的新しい在留資格です。特定の産業分野における深刻な労働力不足に対応するため、一定の知識や経験を持つ外国人材を受け入れる制度として設計されています。

この制度は、従来の技能実習制度とは異なり、労働力としての外国人受入れを正面から認めた制度と言えます。

1-2. 「技術・人文知識・国際業務」制度の目的

一方、「技人国」は、海外の「ワーキングビザ」に相当する在留資格です。その目的は、外国人が持つ専門的な知識や技術を日本に還元することにあります。

この制度は人手不足解消というよりも、自然科学や人文科学などの専門知識、外国の文化に関する知識を必要とする業務のために設けられた制度です。つまり、専門性の高い人材の受入れに主眼が置かれています。

制度の根本的な違い

「特定技能」は労働力不足解消が主目的であるのに対し、「技人国」は専門知識・技術の活用が主目的です。この制度目的の違いが、後述する様々な制度の違いの根本的な理由となっています。

2. 対象となる業務内容の違い(単純労働の可否)

2-1. 「特定技能」で従事できる業務

「特定技能」では、一定の専門性・技能を要する業務だけでなく、単純労働を含む業務も行うことができます。ただし、対象となる産業分野は以下の特定16分野に限定されています

  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 工業製品製造業
  • 自動車整備
  • 建設
  • 造船・舶用工業
  • 航空
  • 自動車運送業
  • 鉄道
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造業
  • 林業
  • 宿泊
  • 外食業
  • 木材産業

例えば、ホテル・宿泊業では、フロント業務だけでなく、ベッドメイキングや清掃といった単純作業も業務に含めることができます。

2-2. 「技人国」で従事できる業務

「技人国」では、単純労働は原則として禁止されています。従事できる業務は、専門的な知識や技術を活用する業務に限られます。具体的には以下のような職種が該当します

  • 【技術分野】システムエンジニア、プログラマー、設計、生産技術などの理系職種
  • 【人文知識分野】営業、財務、人事、総務、企画などの文系専門職種
  • 【国際業務分野】通訳翻訳、語学教師などの語学を活かす職種

例えば、IT企業でシステム開発を行うのは認められますが、商品の棚卸や清掃といった単純作業を業務に含めることは資格外活動にあたり、認められません。

重要ポイント:単純労働に関する明確な違い

「技人国」では単純労働は禁止されているため、日常業務に単純作業が多く含まれる場合は「特定技能」を検討する必要があります(該当業種の場合)。一方、専門性の高い業務を中心に任せたい場合は「技人国」が適しています。

在留資格対象業務単純労働の可否
特定技能特定16分野の業務可能(分野内の単純作業を含む業務OK)
技術・人文知識・国際業務専門知識・技術を要する業務不可(単純作業は資格外活動となる)

3. 求められる要件の違い(学歴・経験・日本語能力)

3-1. 「特定技能」に求められる要件

「特定技能」の取得には、基本的に以下の要件を満たす必要があります

  • 技能試験に合格していること(分野ごとに設定)
  • 日本語能力試験N4以上または同等の日本語能力を有すること
  • 18歳以上であること
  • 健康状態が良好であること

なお、技能実習2号を修了した外国人については、技能試験や日本語試験が免除される特例があります。

特徴的なのは、学歴要件がない点です。大卒である必要はなく、実務能力があれば取得できる可能性があります。

3-2. 「技人国」に求められる要件

「技人国」の取得には、以下のいずれかの要件を満たす必要があります

  • 従事する業務に関連する学歴を有していること
    • 「技術」分野:自然科学分野(理系)の短大/専門学校卒以上
    • 「人文知識」分野:人文科学分野(文系)の短大/専門学校卒以上
  • または、十分な実務経験を有していること
    • 「技術・人文知識」の分野:10年以上の実務経験
    • 「国際業務」の分野:3年以上の実務経験
  • 日本語能力については、法律上は明確な基準はありませんが、実務上はN2〜N3程度が求められることが多い

「技人国」のポイントは、学歴要件が厳格であり、業務に関連する専門学校以上の学歴が必要とされる点です。ただし、十分な実務経験がある場合は、学歴要件を満たさなくても取得できる可能性があります。

要件特定技能技術・人文知識・国際業務
学歴不問業務に関連する短大/専門学校卒以上
技能・経験技能試験の合格または技能実習2号修了学歴がない場合、10年(技術・人文知識)または3年(国際業務)の実務経験
日本語能力N4以上または同等レベル明確な基準なし(実務上はN2〜N3程度)

4. 受入れ企業の義務の違い(特に義務的支援の有無)

4-1. 「特定技能」における企業の義務

「特定技能1号」の外国人を雇用する企業には、義務的支援が求められます。これは、外国人が日本での生活に適応し、安定して就労できるようにするためのものです。具体的な義務的支援には以下が含まれます

  • 事前ガイダンスの実施(来日前の情報提供)
  • 出入国時の送迎
  • 住宅確保・生活に必要な契約支援
  • 生活オリエンテーションの実施
  • 公的手続きのサポート(在留カード、マイナンバー、銀行口座開設など)
  • 日本語学習の機会の提供
  • 相談・苦情対応体制の整備
  • 外国人と日本人との交流促進
  • 転職支援(雇用契約終了時)
  • 定期的な面談の実施と記録

これらの義務的支援は企業にとって大きな負担となる可能性がありますが、登録支援機関に委託することも可能です。登録支援機関は法務省に登録された支援を専門に行う機関で、企業に代わって支援業務を行います。

4-2. 「技人国」における企業の義務

「技人国」では、義務的支援の制度はありません。基本的な雇用契約の履行(適切な賃金支払いなど)は必要ですが、生活支援などは企業の任意となります。

この点が「特定技能」との大きな違いであり、企業負担が少ない点が「技人国」のメリットともいえます。

ポイント:義務的支援の有無が企業の負担に直結

「特定技能」では義務的支援の実施または委託が必須であり、その分のコストと手間が発生します。受入れ体制が整っていない企業は、登録支援機関の活用を検討する必要があります。一方、「技人国」では義務的支援は不要であり、企業の裁量で必要な支援を行えばよいでしょう。

5. 在留期間と更新の違い

5-1. 「特定技能」の在留期間

「特定技能」には1号と2号の区分があり、それぞれ在留期間が異なります

  • 特定技能1号:在留期間は最長5年まで(1年、6か月または4か月ごとの更新)
  • 特定技能2号:在留期間の上限なし(3年、1年または6か月ごとの更新)

特定技能1号の場合、通算で5年を超えて在留することはできません。ただし、特定技能2号への移行や他の在留資格への変更によって、継続して日本に滞在することは可能です。

現在、特定技能2号への移行が認められているのは「建設」と「造船・舶用工業」の2分野のみですが、今後拡大される可能性もあります。

5-2. 「技人国」の在留期間

「技人国」の在留期間は、以下のいずれかで付与されます

  • 5年
  • 3年
  • 1年

「技人国」には在留期間の上限がなく、要件を満たしていれば何度でも更新が可能です。

在留資格在留期間更新制限
特定技能1号1年/6か月/4か月通算5年まで
特定技能2号3年/1年/6か月上限なし
技術・人文知識・国際業務5年/3年/1年上限なし

6. 転職の自由度の違い

6-1. 「特定技能」における転職

「特定技能」では、制度上は転職が認められています。同じ特定産業分野内であれば、転職先を見つけて在留資格変更許可申請を行うことで転職が可能です。

ただし、実際には以下の理由から転職のハードルが高いのが現状です

  • 転職のための在留資格変更許可申請中は働くことができず、収入が途絶える
  • 申請手続きには転職先企業の協力が必要
  • 業界団体による引き抜き自粛要請が存在する場合がある

6-2. 「技人国」における転職

「技人国」でも、同じ在留資格の範囲内であれば転職が可能です。例えば、あるIT企業から別のIT企業へ同様の業務内容で転職する場合などです。

転職の際には、新たな雇用先での業務内容が「技人国」の範囲内であることを示す必要があります。また、特定技能と同様に、転職中は働くことができないという課題があります。

転職に関する企業側のリスク

どちらの在留資格でも転職は制度上可能であるため、企業側としては外国人材が転職してしまうリスクがあります。そのため、給与・待遇面での配慮や、キャリアパスの提示などを通じて、長期的に働きたいと思える環境づくりが重要です。

7. 家族帯同と永住の可能性

7-1. 「特定技能」の家族帯同と永住

「特定技能」における家族帯同と永住については、1号と2号で大きく異なります

  • 特定技能1号:基本的に家族帯同は認められていません。また、在留期間が最長5年のため、永住権取得の条件である「原則10年以上の在留」を満たすことができません。
  • 特定技能2号:配偶者と子どもの帯同が認められています。また、在留期間の上限がなく、条件を満たせば将来的に永住権を取得することも可能です。

7-2. 「技人国」の家族帯同と永住

「技人国」では、配偶者と子どもの帯同が可能です。家族は「家族滞在」という在留資格で日本に滞在することができます。

また、「技人国」で10年以上在留し、その他の要件(素行要件、生計要件など)を満たせば、永住権申請が可能です。「高度専門職」への変更などを通じて、より早く永住権を取得できる場合もあります。

在留資格家族帯同永住可能性
特定技能1号原則不可直接は不可(5年上限のため)
特定技能2号可能条件を満たせば可能
技術・人文知識・国際業務可能条件を満たせば可能

8. どちらの在留資格を選ぶべきか?判断のポイント

8-1. 「特定技能」が適している場合

以下のような場合には、「特定技能」での受入れを検討するとよいでしょう

  • 特定16分野のいずれかに該当する業種である
  • 単純労働を含む幅広い業務に従事してもらいたい
  • 学歴よりも実務能力を重視したい
  • 技能実習修了者を継続して雇用したい

8-2. 「技人国」が適している場合

以下のような場合には、「技人国」での受入れを検討するとよいでしょう

  • 専門的な知識や技術を活かした業務に従事してもらいたい
  • 長期的なキャリア形成を視野に入れている
  • 家族帯同を希望する外国人材を採用したい
  • 支援体制の構築・維持が難しい
  • 特定16分野以外の業種である

8-3. 総合的な判断ポイント

最終的には、以下のポイントを総合的に考慮して判断することをおすすめします

  • 業種・業務内容(単純労働の有無)
  • 採用したい人材の資質(学歴、経験、日本語能力)
  • 支援体制の整備状況(義務的支援への対応)
  • 長期雇用の意向(在留期間、永住可能性)
  • 家族帯同の必要性

制度間の移行も選択肢の一つ

例えば、最初は「特定技能1号」で採用し、一定期間経過後に「技人国」への在留資格変更を検討するという方法もあります。これにより、単純労働も含む幅広い業務から始めて、徐々に専門的な業務へシフトさせていくことも可能です。ただし、「技人国」の要件を満たすための学習・スキル形成のサポートが必要になります。

9. まとめ:企業にとっての最適な選択

「特定技能」と「技人国」は、それぞれ特徴が大きく異なります。どちらが優れているということではなく、企業のニーズや受け入れる外国人材の状況によって、最適な選択は異なります。

■「特定技能」のポイント

  • 特定16分野の人手不足解消が目的
  • 単純労働を含む幅広い業務が可能
  • 学歴要件はないが、技能試験とN4レベルの日本語能力が必要
  • 義務的支援が必要(登録支援機関への委託も可能)
  • 1号は最長5年、家族帯同不可
  • 2号は在留期間の上限なし、家族帯同可能

■「技人国」のポイント

  • 専門的知識・技術の活用が目的
  • 単純労働は禁止
  • 業務に関連する学歴または十分な実務経験が必要
  • 義務的支援は不要
  • 在留期間の上限なし
  • 家族帯同が可能

外国人材の採用は、単なる人手不足の解消だけでなく、企業の国際化や多様な価値観の導入などのメリットをもたらします。一方で、受入れ制度の複雑さや言語・文化の違いによる課題もあります。

最適な在留資格の選択と、その後の適切な手続きを行うためには、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案については専門家にご相談ください。

※記事の内容は2025年時点の情報に基づいています。制度の変更により、内容が実際の制度と異なる場合があります。

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