「外国人派遣社員」の受け入れ、派遣元任せは危険?派遣先企業が負う責任とビザ管理の実務

「外国人派遣社員」の受け入れ、派遣元任せは危険?派遣先企業が負う責任とビザ管理の実務 | 行政書士しかま事務所
企業向け入管法コンプライアンス

「外国人派遣社員」の受け入れ、派遣元任せは危険?
派遣先企業が負う責任とビザ管理の実務

読了時間:約12分

この記事を読むとわかること

  • 外国人派遣で「派遣先」にも問われる法的責任の範囲
  • 派遣社員の仕事内容が原因で派遣先が「不法就労助長罪」になるケース
  • 受け入れ時に派遣先が必ず確認すべき「在留カード」の3つのポイント
  • ビザ更新時に派遣先企業が協力すべきこと
  • 「派遣元任せ」のリスクを回避するための実践的チェックリスト

外国人派遣のビザ管理、派遣元に"丸投げ"していませんか?

多くの企業様から、このようなご相談をお受けします

  • 「ビザや在留資格のことは、雇用主である派遣会社の責任でしょ?」
  • 「うちは派遣元から大丈夫と聞いているから、特に何も確認していない…」
  • 「派遣社員にどんな仕事をさせても、派遣元との契約通りなら問題ない?」
  • 「もし派遣社員のビザに問題があったら、うち(派遣先)も罰せられるの?」
  • 「ビザ更新の時、派遣先として何をどこまで協力すればいいの?」

残念ながら、「派遣元任せ」という考え方は、派遣先企業を重大な法的リスクにさらす危険な認識です。本記事では、行政書士の専門的な視点から、派遣先企業が知っておくべき法的責任と実務対応について詳しく解説いたします。

目次

1. はじめに:便利な「外国人派遣」に潜む、派遣先企業の"見えない"リスク

行政書士しかま事務所より

当事務所では、外国人の在留資格(ビザ)に関する豊富な実務経験を基に、企業様の外国人雇用コンプライアンス体制構築をサポートしております。近年、労働力確保の有効な手段として外国人派遣社員の活用が広がる一方で、多くの派遣先企業様が重大なリスクを見過ごしていることを懸念しております。

人手不足が深刻化する中、労働者派遣を通じた外国人材の活用は、多くの企業にとって重要な選択肢となっています。派遣という仕組みを利用することで、企業は雇用契約の締結や社会保険の手続き、さらにはビザ申請といった複雑な手続きを派遣元企業に委ねることができ、「手軽に外国人材を活用できる」というメリットを享受できます。

しかし、この便利さの裏に潜む「派遣先企業の法的責任」について、正確に理解している企業はどれほどあるでしょうか。「雇用主ではないから関係ない」「ビザのことは派遣元が全て責任を持つ」といった認識は、企業を予期しない法的リスクにさらす危険な誤解です。

重要な警告

出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条の2に規定される「不法就労助長罪」は、直接の雇用主だけでなく、外国人に不法な就労活動をさせた者も処罰の対象となります。つまり、派遣先企業であっても、適切な確認を怠れば刑事罰の対象となる可能性があるのです。

本記事では、この「派遣元任せ」の危険性を具体的に解き明かし、派遣先企業が負うべき法的責任と、それを果たすための実践的な管理実務について、行政書士の専門的な視点から徹底的に解説いたします。適切な知識と対策により、企業様が安心して外国人派遣社員を活用できるよう、お役に立てれば幸いです。

2. 基本の整理:「派遣元」と「派遣先」の役割と責任分担

外国人派遣社員の受け入れについて正しく理解するためには、まず労働者派遣制度における基本的な役割分担を明確にしておく必要があります。

労働者派遣の基本構造

派遣元企業(派遣会社)

【雇用主としての責任】

  • • 雇用契約の締結
  • • 給与の支払い
  • • 社会保険への加入
  • • ビザ申請(所属機関として)
  • • 労働条件の明示

派遣先企業(受入企業)

【指揮命令者としての責任】

  • • 日々の業務指示・管理
  • • 労働時間の管理
  • • 安全衛生管理
  • • 適正な業務の範囲確保
  • • 労働環境の提供

この役割分担を見ると、「雇用関係は派遣元にあるから、派遣先は関係ない」と思われがちです。しかし、実際の業務遂行において指揮命令権を持つ派遣先企業には、独自の法的責任が生じることを理解しておく必要があります。

なぜ派遣先にも責任が生じるのか

外国人が従事する具体的な業務内容を決定し、実際に指示を出すのは派遣先企業です。そのため、その業務が外国人の在留資格で許可された活動範囲内であるかを確認し、範囲を逸脱させない責任が派遣先にも発生するのです。また、労働安全衛生法等の労働法規についても、実際の就労現場を管理する派遣先に適用される規定が多数存在します。

3. 【最大の落とし穴】不法就労助長罪は派遣先も対象!入管法上の責任

入管法第73条の2「不法就労助長罪」の重大性

法定刑:5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金

この罪は、外国人を雇用した雇用主だけでなく、外国人に不法就労活動をさせた者、あるいはそのあっせんをした者も処罰の対象となります。つまり、直接の雇用関係がない派遣先企業であっても、外国人に不法な就労をさせれば刑事罰の対象となる可能性があるのです。

派遣先が不法就労助長罪に問われる具体的なケース

ケース1:資格外活動による違反

具体例:「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で受け入れたITエンジニアに対し、派遣先企業が工場での単純なライン作業を指示した場合

問題点:「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、専門的・技術的な業務のみが許可されており、単純労働は認められていません。派遣先企業が契約外の業務や在留資格の範囲を超える業務を指示すれば、不法就労助長罪の要件を満たすことになります。

ケース2:在留期限・就労制限の確認不備

具体例:外国人派遣社員の在留期限が既に切れていることを知りながら、または適切な確認を怠って就労を継続させた場合

問題点:在留期限を超えた外国人(オーバーステイ)の就労は完全に違法行為です。また、「留学」や「家族滞在」など就労制限のある在留資格の外国人を、資格外活動許可なしに就労させることも同様に違法となります。

「派遣元が大丈夫だと言ったから」は通用しない

不法就労助長罪において、「派遣元企業から適法である旨の説明を受けていた」という事実は、派遣先企業の刑事責任を免除する理由とはなりません。派遣先企業は、自社で行わせる業務がその外国人の在留資格の範囲内であるかを独自に確認し、違法な就労をさせない責任があります。

実際の処罰事例について

入管法違反については、企業名の公表や事業許可の取り消し等の行政処分に加え、刑事事件として立件されるケースも少なくありません。特に悪質な事案については、企業の社会的信用に重大な影響を与える可能性があることを十分に認識しておく必要があります。

4. 【これも派遣先の義務】労働者派遣法等が定める労働法規上の責任

入管法上の責任に加えて、派遣先企業は労働者派遣法をはじめとする各種労働法規に基づく責任も負います。これらは国籍に関わらず全ての派遣社員に適用されますが、外国人派遣社員の場合は言語や文化の違いを考慮した特別な配慮が求められる場合があります。

労働時間・休憩・休日管理

  • • 労働基準法に基づく労働時間の管理
  • • 適切な休憩時間の確保
  • • 時間外労働の適正な管理
  • • 休日出勤時の適切な対応

労働安全衛生管理

  • • 安全教育の実施
  • • 作業環境の安全確保
  • • 健康診断受診への配慮
  • • 災害防止措置の実施

ハラスメント防止

  • • セクハラ・パワハラ防止措置
  • • 相談窓口の設置・周知
  • • 迅速かつ適切な対応
  • • 再発防止策の実施

苦情処理・相談対応

  • • 派遣社員からの苦情受付
  • • 派遣元企業との連携
  • • 適切な改善措置の実施
  • • 記録の保存・管理

外国人派遣社員に対する特別な配慮事項

  • 言語対応:重要な安全教育や労働条件の説明について、理解可能な言語での説明や通訳の手配
  • 文化的配慮:宗教的な祝日や慣習への理解と適切な配慮
  • コミュニケーション:定期的な面談や相談機会の設定
  • 緊急時対応:災害や事故発生時の多言語対応体制の整備

社会保険労務士との連携の重要性

労働法規の詳細な解釈や具体的な労務管理については、社会保険労務士の専門領域となります。外国人派遣社員の受け入れにあたっては、入管法の専門家である行政書士と、労働法規の専門家である社会保険労務士の両方と連携することで、より確実なコンプライアンス体制を構築することができます。

5. 【実践】派遣先企業のための外国人社員ビザ・労務管理チェックリスト

ここでは、派遣先企業が外国人派遣社員を受け入れる際に実践すべき具体的なチェックポイントを、時系列に沿って整理いたします。このチェックリストを活用することで、法的リスクを最小限に抑えながら適切な受け入れ体制を構築できます。

【契約前】派遣元企業の選定段階

【受入時】在留カード等の確認段階

在留カード確認の3つの重要ポイント

  1. 在留資格欄:「技術・人文知識・国際業務」「技能」「特定技能」等の就労可能な資格であるか
  2. 在留期間欄:有効期限内であり、契約期間をカバーできているか
  3. 就労制限欄:「就労制限なし」または業務内容と整合する制限内容であるか

【業務指示時】在留資格適合性の確保

【就労中】継続的な労働環境管理

【問題発生時】迅速な対応と連携

6. ビザ更新時の派遣先の協力と情報提供

外国人派遣社員のビザ(在留期間)更新は、原則として雇用主である派遣元企業が申請手続きを行います。しかし、実際の業務を管理する派遣先企業の協力なしには、適切な更新申請を行うことができません。ここでは、派遣先企業が果たすべき協力義務について詳しく解説します。

ビザ更新時に求められる派遣先の資料

出入国在留管理庁(入管)では、ビザ更新申請時に「実際の職務内容」を詳細に確認します。そのため、以下のような資料の提出を求められることが一般的です

  • • 職務内容説明書(派遣先での具体的業務内容)
  • • 派遣先での業務に関する証明書
  • • 組織図・業務分担表
  • • 勤務実績に関する資料

派遣先企業の具体的協力事項

資料作成への協力

  • 正確な職務内容の記載:実際に従事している業務を具体的かつ正確に記述
  • 在留資格との整合性確保:記載内容が在留資格で認められる活動範囲内であることを確認
  • 勤務実績の証明:勤務日数、勤務時間等の実績データの提供
  • 将来の業務予定:更新後の業務継続予定や業務内容の変更予定について説明

スケジュール管理

  • 更新時期の事前把握:在留期限の3ヶ月前には更新準備を開始
  • 派遣元との情報共有:更新スケジュールについて派遣元と密に連携
  • 資料作成期間の確保:必要資料の作成に十分な時間を確保
  • 緊急時の対応準備:万一の遅延に備えた対応策の検討

虚偽記載のリスク

職務内容説明書等において虚偽の内容を記載することは、入管法違反(虚偽申請)にあたる可能性があり、派遣先企業自身が法的責任を問われるリスクがあります。必ず事実に基づいた正確な情報を提供することが重要です。

円滑な更新手続きのためのポイント

  1. 定期的な業務記録の保持:日常的に外国人派遣社員の業務内容を記録し、更新時に迅速に資料作成できる体制を整備
  2. 派遣元との定期協議:月次または四半期ごとに派遣元と業務状況について情報交換を実施
  3. 専門家との事前相談:複雑なケースについては、事前に行政書士等の専門家に相談し、適切な対応策を検討
  4. 社内体制の整備:ビザ更新対応を担当する部署・担当者を明確にし、責任体制を確立

7. まとめ:積極的な関与で、コンプライアンスと良好な派遣関係を

本記事では、外国人派遣社員を受け入れる派遣先企業が負うべき法的責任と、その具体的な実務対応について詳しく解説してまいりました。重要なポイントを改めて整理いたします。

リスクの認識

「派遣元任せ」は重大な法的リスクを孕んでいます。不法就労助長罪は派遣先企業も処罰対象となり得ることを忘れてはいけません。

責任の自覚

指揮命令者として、在留資格の確認と適法な業務範囲の維持は派遣先企業の重要な義務です。

積極的関与

派遣元との密な連携と、ビザ管理への積極的な関与が成功の鍵となります。

成功のための5つの基本原則

  1. 在留カードの確実な確認:在留資格、在留期間、就労制限の3点を必ず確認
  2. 業務範囲の厳格な管理:在留資格で認められた活動範囲内での業務指示を徹底
  3. 派遣元との密な連携:定期的な情報共有と協議体制の確立
  4. 継続的な記録管理:確認事項や業務内容の適切な記録・保存
  5. 専門家の活用:疑義がある場合の迅速な専門家への相談

外国人派遣社員の受け入れ成功の鍵は、「他人任せ」にせず、派遣先企業も「当事者」としての責任を自覚し、積極的にビザ・労務管理に関与することです。適切な知識と体制に基づく受け入れは、企業にとって貴重な人材確保の手段となり、外国人材にとっても安心して働ける環境を提供することにつながります。

コンプライアンスは「守らなければならない負担」ではなく、「持続可能な外国人材活用のための基盤」として捉え、企業と外国人双方にとってWin-Winの関係を構築していただければと思います。

行政書士しかま事務所の派遣先企業向けコンプライアンスサポート

行政書士しかま事務所では、外国人派遣社員を受け入れる派遣先企業様に対し、入管法コンプライアンスの観点から専門的なサポートを提供しております。「知らなかった」では済まされない法的リスクを回避し、安心して外国人材を活用していただけるよう、実務に即したサービスをご提供いたします。

具体的なサポート内容

受け入れ時支援

  • • 在留カード確認方法の指導
  • • 業務内容と在留資格の適合性診断
  • • 派遣契約書のリーガルチェック
  • • 受け入れ手順書の作成

体制構築支援

  • • コンプライアンス体制構築アドバイス
  • • 社内マニュアル・チェックリスト作成
  • • 管理担当者向け研修の実施
  • • 定期的なコンプライアンス監査

更新時支援

  • • 職務内容説明書の作成サポート
  • • 在留資格適合性の再確認
  • • 更新申請書類の事前チェック
  • • 入管対応のアドバイス

継続サポート

  • • 派遣元企業との連携支援
  • • 法改正情報の定期提供
  • • 緊急時の相談対応
  • • セカンドオピニオンの提供

こんなお悩みをお持ちの企業様へ

  • ✓ 自社の外国人派遣の運用が法的に問題ないか不安
  • ✓ 派遣社員のビザ更新で協力を求められているが、どう対応すればいいかわからない
  • ✓ 派遣元企業の対応に不安があり、セカンドオピニオンが欲しい
  • ✓ 社内のコンプライアンス体制を専門家の目で確認してもらいたい

派遣先企業の「知らなかった」では済まされないリスクを回避。
外国人派遣の適正な運用を、ビザの専門家がサポートします。

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※ 本記事の情報について:
本記事は2025年6月時点の法令・運用に基づいて作成されております。法令の改正や運用の変更により、記載内容が実情と異なる場合がございます。具体的なケースについては、必ず最新の法令を確認の上、行政書士等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づく判断や行動により生じた損害について、当事務所では責任を負いかねますので、予めご了承ください。労働法規の詳細については、社会保険労務士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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