M&A・事業再編時の外国人社員のビザ手続き

M&A・事業再編時の外国人社員のビザ手続き:引継ぎ漏れが招く法的リスクとスムーズな移行プラン | 行政書士しかま事務所

M&A・事業再編時の外国人社員のビザ手続き:引継ぎ漏れが招く法的リスクとスムーズな移行プラン

読了時間:約12分 | 2025年5月30日更新

行政書士しかま事務所(https://gyousei-shikama-office.com/)の鹿間英樹です。本日は企業のM&A・事業再編において見落とされがちな「外国人社員の在留資格手続き」について、専門家の視点から詳しく解説いたします。

近年、日本企業におけるM&Aや事業再編の件数は増加傾向にあり、それに伴い多様な国籍の従業員を抱える企業同士の統合も珍しくなくなってきました。しかし、人事労務関連のデューデリジェンスやPMI(Post Merger Integration)において、外国人社員の在留資格に関する手続きが適切に検討されていないケースが散見されます。

これらの手続きを怠ると、企業にとって不法就労助長罪という重大な法的リスクを負うことになりかねません。本記事では、2025年5月30日時点の最新の入管法及び関連法規に基づき、各M&A・事業再編スキームにおける外国人社員のビザ手続きについて、実務的な観点から解説してまいります。

この記事を読むとわかること

  • M&A・事業再編で外国人社員のビザはどうなる?基本的な考え方
  • 合併、会社分割、事業譲渡…スキーム別の必要入管手続き一覧
  • 手続き漏れが招く「不法就労助長罪」などの重大リスク
  • M&Aデューデリジェンスでの外国人雇用のチェックポイント
  • スムーズなビザ移行を実現するための具体的なプランと専門家の活用法

M&A・事業再編時、こんなビザの悩み・不安はありませんか?

「合併するけど、相手企業の外国人社員のビザ手続きって何か必要?」

「事業譲渡で外国人社員が移籍するけど、ビザは自動で引き継がれるの?」

「会社分割で新会社に転籍する外国人社員、ビザの変更はいつまでに?」

「株式譲渡で親会社が変わっただけなら、外国人社員のビザは特に何もしなくていい?」

「M&Aのデューデリで、相手企業の外国人雇用状況、どこをチェックすれば?」

これらのお悩みに、専門家が詳しくお答えします

1. はじめに:M&A・事業再編と見過ごされがちな「外国人社員のビザ」問題

近年、企業競争力強化や市場拡大を目的としたM&A・事業再編が活発化しており、2024年の日本企業によるM&A件数は前年比で増加傾向を示しています。これに伴い、多国籍の従業員を擁する企業同士の統合や、グローバル展開を進める企業による事業買収も珍しくない状況となっています。

しかしながら、M&A・事業再編における人事労務関連のデューデリジェンスやPMIにおいて、「外国人社員の在留資格(ビザ)」に関する検討が十分に行われていないケースが散見されます。特に、中小企業間のM&Aや緊急性を要する事業再編においては、この点が後回しにされることが多く、深刻な法的リスクを見落としている可能性があります。

重要な警告

外国人社員の在留資格手続きを適切に行わない場合、企業は不法就労助長罪に問われる可能性があります。2025年6月からは罰則が強化され、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科される予定です。また、貴重な外国人材の継続雇用が困難になるリスクも伴います。

本記事では、行政書士として数多くのM&A・事業再編に伴う外国人社員のビザ手続きをサポートしてきた経験に基づき、各スキームにおいて必要となる具体的な手続き、見落としがちなリスク、そして円滑な移行を実現するための実務的なアプローチについて詳細に解説いたします。

2. 大原則:雇用主(所属機関)が変われば、ビザの手続きが必要!

外国人の就労に関する在留資格は、特定の「所属機関(雇用主)」において「許可された活動」を行うことを前提として付与されています。これは、入管法第2条の2における「中長期在留者」の定義や、同法第19条の就労に関する規定に基づく基本的な原則です。

ビザ手続きが必要となる判断基準

  • 法的な雇用主(契約主体)が変更になる場合
  • 従事する業務内容が実質的に変わる場合
  • 勤務地が大幅に変更される場合
  • 労働条件が大幅に変更される場合

したがって、M&Aや事業再編の結果として上記のいずれかに該当する変更が生じる場合には、原則として何らかの入国管理局への手続き(在留資格変更許可申請、所属機関に関する届出など)が必要になります。

よくある誤解

「ビザは個人に与えられているものだから、会社が変わっても大丈夫」という誤解が非常に多く見受けられます。しかし、就労系の在留資格は所属機関との関係性において許可されているため、雇用主の変更は必ず入管手続きに影響します。

次章では、具体的なM&A・事業再編のスキームごとに、どのような手続きが必要になるのかを詳しく解説いたします。

3. 【スキーム別】M&A・事業再編時の具体的な入管手続き

M&A・事業再編の各スキームによって、外国人社員の雇用契約の承継方法や法的地位が異なるため、必要となる入管手続きも大きく変わります。以下、主要なスキームごとに詳しく解説いたします。

① 合併(吸収合併・新設合併)

吸収合併

A社(消滅)→ B社(存続)

消滅会社の外国人社員は存続会社に雇用契約が承継

新設合併

A社・B社(消滅)→ C社(新設)

両社の外国人社員は新設会社に雇用契約が承継

必要な手続き

  • 所属機関に関する届出(入管法第19条の16)- 合併効力発生日から14日以内
  • 届出事由:「消滅」「移籍」「名称変更」「所在地変更」
  • 業務内容が大きく変わる場合:在留資格変更許可申請も検討
  • 継続雇用の証明:就労資格証明書交付申請の検討

特定技能の場合:合併であっても「在留資格変更許可申請」が必要です(入管法第20条)。

② 会社分割(吸収分割・新設分割)

吸収分割

A社のB部門 → C社(既存)へ承継

新設分割

A社のB部門 → D社(新設)として分離

必要な手続き

  • 所属機関に関する届出 - 「離脱」「移籍」
  • 分割により業務内容が変わる場合:在留資格変更許可申請
  • 新設分割の場合:新会社設立の影響を考慮した手続き計画が重要

③ 事業譲渡(最も注意が必要)

事業譲渡では雇用契約は自動承継されません。譲受企業による新規雇用となります。

必要な手続き

  • 在留資格変更許可申請(同一資格内でも必要な場合が多い)
  • 場合によっては在留資格認定証明書交付申請
  • 「所属機関に関する届出」だけでは不十分
  • 譲渡前後での継続性の立証が重要

事業譲渡は最もリスクが高いスキームです。新しい雇用主との雇用契約締結前に、必ず入管手続きの要否を専門家に確認することを強く推奨します。

④ 株式譲渡(子会社化など)

外国人社員の直接的な雇用主(法人格)は変わらないため、原則として直ちにビザ手続きは不要

注意すべきポイント

  • 親会社変更に伴う役員変更がある場合
  • 事業内容の大幅な変更がある場合
  • 労働条件の大幅な変更がある場合
  • 次回のビザ更新時に影響する可能性を考慮

スキーム選択における重要ポイント

外国人社員のビザ手続きの複雑さと費用を考慮すると、事業譲渡よりも合併や会社分割の方が手続き負担は軽くなる傾向があります。M&A戦略立案時に、この点も含めて総合的に検討することが重要です。

4. 手続き漏れ・遅延が招く深刻な法的リスク(企業・外国人双方)

M&A・事業再編時における外国人社員のビザ手続きを怠った場合、企業と外国人社員の双方に深刻な法的リスクが生じます。特に2025年6月からは不法就労助長罪の罰則が大幅に強化される予定であり、より一層の注意が必要です。

企業側のリスク

不法就労助長罪(入管法第73条の2)

現行(2025年5月まで):3年以下の懲役または300万円以下の罰金

改正後(2025年6月から):5年以下の懲役または500万円以下の罰金

※状況によっては懲役と罰金の両方が科される場合もあります

行政処分・指導

  • 出入国在留管理庁からの行政指導
  • 改善命令の発出
  • 新規外国人雇用の制限

事業運営への影響

  • 今後の外国人社員のビザ更新が困難に
  • 新規外国人採用の審査が厳格化
  • M&A・事業再編自体の評価への悪影響
  • 企業レピュテーションの毀損

外国人社員側のリスク

在留資格取消事由への該当

許可された活動を継続して一定期間行っていない場合、在留資格取消しの対象となる可能性があります。

ビザ更新への影響

適切な手続きを経ずに就労した履歴は、次回のビザ更新時に不許可事由となる可能性があります。

最悪の場合

在留資格の取消しにより、退去強制手続きの対象となる可能性があります。

「知らなかった」では済まされません

入管法違反は故意・過失を問わず処罰対象となります。M&A・事業再編の忙しさの中で「うっかり忘れていた」「知らなかった」という理由では、法的責任を免れることはできません。事前の計画的な対応が不可欠です。

リスク回避のための対策

  • M&A・事業再編の計画段階から外国人社員のビザ問題を検討項目に含める
  • 専門家(行政書士)による事前診断とリスク評価を実施する
  • スキームごとの必要手続きを明確化し、スケジュール管理を徹底する
  • 外国人社員への十分な説明と理解促進を図る

5. M&Aデューデリジェンスにおける外国人雇用関連のチェックポイント

M&Aの成功には、対象企業(または事業)の外国人雇用状況を正確に把握することが不可欠です。見落としがちなポイントを含め、重要なチェック項目を体系的に整理いたします。

基本情報の確認

雇用実態の把握

  • 外国人社員の総数と国籍別内訳
  • 在留資格別の人数(技人国、特定技能、技能実習等)
  • 在留期限の分布(更新時期の集中度)
  • 雇用形態(正社員、契約社員、派遣等)

在留カード等の確認

  • 在留カードの真正性確認状況
  • 就労制限の有無(資格外活動許可含む)
  • 在留カードのコピー保管状況
  • 定期的な確認体制の有無

コンプライアンス状況の確認

入管法関連の届出状況

  • 雇用開始・終了時の届出履歴
  • 所属機関に関する届出の実施状況
  • 活動機関に関する届出の実施状況
  • 届出期限の遵守状況(14日以内等)

労働法関連の確認

  • 労働契約書の内容と在留資格の整合性
  • 実際の職務内容と許可された活動の適合性
  • 労働条件(賃金、労働時間等)の適正性
  • 社会保険の加入状況

特定の在留資格における特別確認事項

特定技能の場合

  • 支援計画の策定・実施状況
  • 登録支援機関との契約内容
  • 協力確認書の提出状況(2025年4月以降)
  • 特定技能外国人への支援実施記録

技能実習の場合

  • 技能実習計画の認定状況
  • 監理団体との関係
  • 技能検定等の受験・合格状況
  • 実習実施状況報告書の提出状況

リスク要因の評価

高リスク事項

  • 過去の入管法違反や労働法違反の履歴
  • 在留カードの偽造・変造の疑い
  • 資格外活動の疑いがある業務従事
  • 届出期限の常習的な遅延

中リスク事項

  • 外国人雇用管理体制の不備
  • 在留期限の管理が不十分
  • 労働契約書と実際の業務内容の乖離
  • 社内教育・研修体制の不備

デューデリジェンス実施のポイント

外国人雇用関連のデューデリジェンスは、単なる書面確認だけでなく、実際の運用状況まで詳細に調査することが重要です。また、発見されたリスクについては、M&A後の統合計画に反映させる必要があります。

  • 外国人社員との直接面談の実施
  • 労務管理システムの確認
  • 過去3年分の入管関連書類の精査
  • 専門家による法的リスク評価

6. スムーズなビザ移行を実現するための実務プランと専門家の役割

M&A・事業再編を成功に導くためには、外国人社員のビザ問題を計画段階から組み込んだ包括的なアプローチが必要です。ここでは、実務的な移行プランと専門家活用のポイントを詳しく解説いたします。

M&A・事業再編の計画段階からの対応

Phase 1: 初期検討段階(M&A検討開始〜LOI締結)

  • 対象企業の外国人雇用状況の概要把握
  • 想定されるM&Aスキームごとのビザ手続き影響分析
  • 専門家チームへの早期相談
  • デューデリジェンス項目への外国人雇用関連事項の組み込み

Phase 2: デューデリジェンス段階

  • 外国人社員リストの詳細確認と個別ビザ状況の把握
  • 必要な入管手続きの特定とスケジュール策定
  • 手続き費用の見積もりとM&A価格への反映検討
  • リスク事項の特定と対応策の立案

Phase 3: 最終契約〜クロージング準備

  • 外国人社員への丁寧な説明会の実施
  • 必要書類の事前準備と収集
  • 入管手続きの申請スケジュールの最終確認
  • 緊急時対応プランの策定

Phase 4: クロージング〜PMI段階

  • 効力発生日に合わせた入管手続きの実行
  • 外国人社員の継続雇用手続きの完了確認
  • 統合後の外国人雇用管理体制の構築
  • 定期的なモニタリング体制の確立

専門家(行政書士)の活用メリット

戦略立案支援

  • M&Aスキーム選択時のビザ手続き影響の助言
  • 最適な手続きルートの提案
  • リスク最小化のための戦略立案
  • コスト・時間の最適化提案

実務サポート

  • 複雑な申請書類の作成・収集支援
  • 入管への申請取次業務
  • 外国人社員への説明・コミュニケーション支援
  • 継続的なビザ管理体制の構築支援

外国人社員とのコミュニケーション戦略

情報提供のタイミング

  • M&A・事業再編の発表と同時期に基本情報を提供
  • 具体的な手続き内容は詳細確定後に段階的に説明
  • 手続き完了まで定期的な進捗報告を実施

多言語対応

  • 主要言語での説明資料の準備
  • 通訳者の手配(必要に応じて)
  • 文化的背景を考慮した説明方法の工夫

不安解消への配慮

  • 雇用継続の明確な意思表示
  • 手続き費用の負担方針の明示
  • 質問・相談窓口の設置

成功のための重要ポイント

M&A・事業再編におけるビザ移行の成功は、「早期の専門家関与」「綿密な計画立案」にかかっています。特に以下の点が重要です

  • M&A検討の初期段階から外国人雇用問題を織り込んだ戦略立案
  • 各フェーズでの適切なタイミングでの専門家への相談
  • 外国人社員との信頼関係維持を重視したコミュニケーション
  • 法的リスクを最小化する保守的なアプローチの採用

7. まとめ:計画的な対応で、M&A・事業再編後の安定した外国人雇用を

M&A・事業再編は企業成長の重要な戦略手段である一方、それに伴う外国人社員の在留資格手続きは極めて専門的かつ慎重な対応を要する分野です。本記事で解説したとおり、各スキームによって必要となる手続きは大きく異なり、その判断を誤ると企業・外国人社員双方に深刻な不利益をもたらすリスクがあります。

特に、2025年6月からは不法就労助長罪の罰則が大幅に強化される予定であり、これまで以上にコンプライアンスを重視した対応が求められます。「知らなかった」「忙しくて後回しにしていた」では済まされない法的責任が伴うことを、改めて強調いたします。

一方で、適切な計画と専門家の支援により、これらのリスクは十分に回避可能です。M&A・事業再編の初期段階から外国人社員のビザ問題を検討事項に含め、各フェーズで適切な対応を行うことで、貴重な外国人材の継続雇用と事業の円滑な引継ぎを両立することができます。

早期発見

M&A検討開始時点での外国人雇用状況の把握

計画的実行

スキームに応じた最適な手続きの計画・実行

リスク回避

専門家による法的リスクの最小化

成功のための3つの原則

  1. 事前準備の徹底:M&A・事業再編の初期段階から外国人雇用問題を織り込んだ戦略立案
  2. 専門家の早期関与:入管法の専門知識を有する行政書士等への適切なタイミングでの相談
  3. 継続的なモニタリング:手続き完了後も含めた中長期的な外国人雇用管理体制の構築

行政書士しかま事務所のM&A・事業再編に伴うビザ手続きサポート

私たちの専門性

  • M&A・事業再編に伴う複雑な外国人ビザ手続きの豊富な対応実績
  • 各スキーム別の最適な申請方法の提案・実行
  • デューデリジェンス段階からPMIまでの総合的サポート
  • 2025年最新の入管法改正に対応した専門知識

提供サービス

  • M&A戦略立案時のビザ手続き影響分析
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本記事の情報は2025年5月30日時点の法令・運用に基づいています。

入管法及び関連法規は頻繁に改正されるため、実際の手続きの際は最新の情報をご確認ください。

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な法的助言を構成するものではありません。 実際の手続きについては、必ず専門家にご相談ください。

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