技人国ビザで「翻訳」「通訳」が認められる要件を行政書士が専門解説
この記事でわかること
- 「技人国ビザ」で翻訳・通訳の仕事をするために必要な学歴・実務経験の条件
- ビザ申請時に提出すべき資料と、それらの効果的な準備方法
- 不許可になりやすいケースとその対策
- 専門家(行政書士)に相談するメリットと適切な判断ポイント
はじめに
はじめまして、行政書士しかま事務所です。当事務所では、外国人の在留資格(ビザ)申請をはじめとする各種行政手続きのサポートを行っております。
グローバル化が進む現代の日本では、翻訳者や通訳者としての外国人材の需要が高まっています。しかし、単に外国語ができるだけでは「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国ビザ)の在留資格は認められません。翻訳・通訳の専門職としての要件を満たす必要があります。
本記事では、技人国ビザにおける翻訳・通訳業務の位置づけから、認められるための具体的な要件、申請のポイントまで、行政書士の視点から詳細に解説します。外国人の翻訳者・通訳者を採用したい企業の方々や、日本で翻訳・通訳の仕事を希望される外国人の方々にお役立ていただければ幸いです。
技人国ビザにおける「翻訳・通訳」業務の位置づけ
「技術・人文知識・国際業務」という在留資格において、翻訳・通訳業務は一般的に「国際業務」のカテゴリーに該当します。
「国際業務」とは、外国の文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務のことを指します。翻訳・通訳業務は、異なる言語間での意思疎通を図るために外国の文化や習慣に関する深い理解が必要なため、まさにこの「国際業務」の典型と言えます。
ただし、単なる言語変換作業ではなく、専門的な知識や技術を要する業務であることが前提となります。入国管理局の審査では、「専門性」「業務量」「報酬」など、様々な観点から就労の適格性が判断されます。
「翻訳・通訳」業務で技人国ビザが認められるための主要要件
A) 学歴要件を満たす場合
学歴要件については、以下のいずれかに該当する必要があります。
大学卒業(学士以上)
日本または海外の大学を卒業している場合、翻訳・通訳業務に関して原則として実務経験は問われません。これは技人国ビザ申請において大きなポイントです。ただし、あくまで「原則として」であり、職務内容との関連性や本人の能力、言語力は当然ながら審査対象となります。
実務例
文学部を卒業した外国人が、専門学校で日本語を学んだ後、日本企業で翻訳者として採用されるケース。この場合、大学で翻訳学や言語学を専攻していなくても、技人国ビザの申請が可能です。
日本の専門学校卒業(「専門士」)
日本の専門学校で翻訳・通訳関連の専門課程を修了し、「専門士」の称号を得ている場合も要件を満たします。このケースでは、専門課程で習得した知識・技術と、就労予定の職務内容の間に直接的な関連性が重要になります。
実務例
日本語学校卒業後、2年制の翻訳専門学校を修了した外国人が、その専門分野(例:医療翻訳)で就職するケース。専門学校での学びと実際の業務内容の一致が求められます。
B) 実務経験要件を満たす場合(学歴要件を満たさない場合)
上記の学歴要件を満たさない場合でも、以下の実務経験があれば技人国ビザの申請が可能です。
3年以上の翻訳または通訳の実務経験
3年以上の翻訳または通訳の実務経験が必要です。ここで重要なのは、この実務経験は常勤として専門的に従事していた経験であることが求められる点です。アルバイトや片手間の経験は原則として認められません。
経験内容の証明には、前職の会社等からの在職証明書が重要な役割を果たします。証明書には、具体的な業務内容、期間、常勤であったことなどが明記されている必要があります。
実務例
母国の企業で正社員として3年間、日本語と母国語間の翻訳・通訳業務に従事していた外国人が、日本企業で同様の業務に就くケース。前職での業務内容と新しい職務の継続性も重視されます。
C) 従事する業務量と専門性
技人国ビザの審査では、単に資格要件を満たすだけでなく、実際に従事する予定の業務内容や業務量も重要な審査ポイントとなります。
十分な業務量
申請に係る翻訳・通訳業務について、恒常的に相当量の業務が見込まれることが必要です。単発的、偶発的な業務では認められません。フルタイムの専門職としての業務量が必要とされます。
例えば、小規模な会社で「時々外国人客が来たときに対応する」「たまに英文メールを翻訳する」程度の業務では、「翻訳・通訳」の専門職としては認められにくいでしょう。
業務の専門性
業務内容については、単なる日常会話レベルの語学力で対応できるものではなく、一定の専門性が求められることが多いです。
- 契約書や技術文書などの専門文書の翻訳
- 技術会議や商談などでの専門的な通訳
- 医療通訳、法廷通訳などの特定分野での高度な通訳
- ウェブサイトやマーケティング資料の多言語対応
- ビジネスレベルでの高度なコミュニケーション支援
これらの業務は、一般的な語学力だけでなく、各分野の専門知識や文化的背景の理解が必要とされる点が特徴です。
D) 報酬要件
翻訳・通訳業務に従事する外国人に対して、日本人が同等の業務に従事する場合と同等額以上の報酬を支払うことが求められます。この点は、外国人の労働条件が日本人と比較して不当に低くならないようにするための重要な要件です。
一般的な目安としては、新卒大卒者の初任給水準以上(月額20万円程度以上)であることが望ましいとされますが、地域や業種によって適切な水準は異なります。
E) 受入れ機関の安定性・継続性
雇用主である企業の事業が安定しており、継続的に業務を提供できることも重要な審査ポイントです。設立間もない会社や、経営状況が不安定な企業の場合、より詳細な事業計画や財務状況の説明が求められることがあります。
特に、外国人を雇用する必要性(例:特定言語のネイティブが必要な理由、通訳・翻訳業務の発生根拠など)を明確に示すことが求められます。
立証資料のポイント
技人国ビザの申請では、上記の要件を満たすことを客観的な資料で立証する必要があります。申請者のバックグラウンドに応じて、必要な書類は以下のように異なります。
学歴で申請する場合
- ✓ 卒業証明書:大学または専門学校の卒業を証明する公式文書。外国の大学の場合は翻訳文も必要
- ✓ 成績証明書:履修科目と成績を示す文書。特に専門学校卒の場合、関連科目の履修状況が重要
- ✓ カリキュラム内容:専門学校の場合、どのような専門知識・技術を学んだか分かる資料
実務経験で申請する場合
- ✓ 在職証明書:前職からの公式な証明書。翻訳・通訳業務に従事した期間(3年以上必要)、具体的な業務内容、役職名、常勤であったこと、週の労働時間を明記
- ✓ 業務内容説明資料:翻訳・通訳した内容の具体例(個人情報や機密情報を除く)
- ✓ 給与証明:給与明細や所得証明等(実務経験の信頼性を補強する資料として)
業務量・専門性の立証(企業側)
- ①具体的な職務内容説明書
- 日常的に翻訳・通訳する内容の具体例
- 業務の流れ
- 必要とされる専門知識
- 業務量(月間の文書量や通訳頻度など)
- ②翻訳・通訳業務の発生見込み証明
- 海外取引先との契約書(翻訳・通訳が必要な業務関係を示すもの)
- 海外展開計画書
- 外国語対応が必要なプロジェクト資料
- ③過去の翻訳・通訳実績
すでに社内で発生している翻訳・通訳業務の実例
- ④雇用契約書
職務内容、労働条件、報酬額などが明記されたもの
語学力の証明
必須ではありませんが、申請者の翻訳・通訳能力を補強する資料として有効です。
- 日本語能力試験(JLPT):外国人側の日本語能力を示す資料(N1レベルが望ましい)
- その他の語学試験スコア:TOEIC、TOEFL、HSK(中国語)など
- 翻訳・通訳の資格:各種民間資格や公的資格があれば有利
不許可となりやすいケースと注意点
審査において不許可となりやすいケースには、以下のようなものがあります。申請前にこれらのポイントをチェックし、対策を講じることが重要です。
実務経験の立証不足
- ・ 在職証明書の内容が曖昧で、具体的な業務内容や常勤性が不明確
- ・ 実務経験の期間が3年に満たない
- ・ 証明書の信頼性に疑義がある(例:発行者の連絡先が不明、社印や署名がない)
- ・ アルバイトやフリーランスでの経験のみで、正規雇用としての経験がない
業務量の不足
- ・ 翻訳・通訳の業務量が常勤として不十分と判断される
- ・ 他の業務(例:一般事務、営業など)がメインで、翻訳・通訳は付随的業務と見なされる
- ・ 定期的・恒常的に発生する業務ではなく、単発的な業務のみ
専門性の不足
- ・ 業務内容が高度な専門性を要するものと認められない(例:社内の簡単なメール翻訳程度)
- ・ 日常会話レベルの通訳のみで、専門知識を要する内容がない
- ・ 外国人の学歴・経験と業務内容の関連性が低い
報酬の不適切さ
- ・ 報酬額が一般的な翻訳・通訳業務の水準と比較して著しく低い
- ・ 同等の業務を行う日本人と比較して不当に低い
受入れ企業の問題
- ・ 企業の事業実態や安定性に疑義がある(例:設立間もない、売上が少ない)
- ・ 外国語対応の必要性が説明できない(例:海外取引や外国人顧客がほとんどない)
- ・ 過去に不正行為や法令違反の記録がある
これらの問題点を事前に把握し、適切な対策を講じることで、不許可リスクを大幅に軽減することが可能です。申請前に専門家(行政書士)に相談することで、個別の状況に応じた最適な対応策を検討できます。
まとめ
技人国ビザで翻訳・通訳業務を行うための要件を整理すると、以下のようになります。
- 1資格要件
「大学卒業(専攻分野は原則問わず)」または「翻訳・通訳分野での3年以上の専門実務経験」のいずれかを満たすこと
- 2業務要件
「十分な専門的業務量」があること。つまり、フルタイムの専門職として恒常的に翻訳・通訳業務に従事すること
- 3報酬要件
日本人と同等以上の報酬を得ること
- 4受入れ企業要件
企業が安定しており、外国人を雇用する合理的な必要性があること
これらの要件をすべて満たし、かつそれを客観的な資料で具体的に示すことができれば、技人国ビザの取得は十分に可能です。
ただし、入国管理局の審査は個別具体的であり、似たような条件でも結果が異なることもあります。特に、「専門性」や「業務量」の判断はケースバイケースとなりますので、余裕を持った申請準備が重要です。
専門家への相談のご案内
「自分の経歴で翻訳・通訳として認められるだろうか?」
「どのような書類を準備すれば業務量や専門性を適切に立証できるか?」
「不許可になった場合の対応策は?」
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ビザ申請は一見複雑に見えますが、専門家のサポートがあれば、スムーズに進めることができます。申請前の段階から適切なアドバイスを受けることで、不許可リスクを大幅に軽減することが可能です。
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