外国人社員の「降格・減給」はビザ更新にどう影響する?適法な人事評価と入管への説明責任

外国人社員の「降格・減給」はビザ更新にどう影響する?適法な人事評価と入管への説明責任

外国人社員の「降格・減給」はビザ更新にどう影響する?
適法な人事評価と入管への説明責任

読了時間:約12分

この記事を読むとわかること

  • 外国人社員の降格・減給がビザ更新に与える具体的な影響
  • 人事評価における「労働法」と「入管法」のダブルチェックポイント
  • 入管審査で「合理的」と判断される減給理由の説明方法
  • ビザ更新不許可リスクを回避するための企業の具体的な対策
  • 降格・減給時の「理由書」で絶対に書くべきこと、書いてはいけないこと

外国人社員の人事評価、こんな時どうする?

「パフォーマンスが低い外国人社員、給与を下げたいがビザは大丈夫?」

「役職を解いて担当者に戻す(降格)と、ビザ更新で不利になる?」

「会社の業績悪化で、全社員一律の減給。外国人社員への影響は?」

「ビザ更新の時、給与が下がった理由をどう説明すればいいの?」

「労働法的にはOKでも、入管でNGになるケースって?」

目次

  1. 1. はじめに:外国人社員の「降格・減給」とビザ更新のデリケートな関係
  2. 2. 第一の壁:「労働法」が求める適法な人事評価と降格・減給
  3. 3. 第二の壁:「入管法」が求める在留資格要件の維持
  4. 4. 【要注意】ビザ更新審査で入管が懸念する3つのポイント
  5. 5. 【実践】不許可リスクを回避するための企業の対応プラン
  6. 6. 更新の鍵を握る!「理由書」での戦略的な説明方法
  7. 7. まとめ:計画的な人事評価と丁寧な説明でリスクを管理
  8. 8. 行政書士しかま事務所の外国人労務・ビザコンサルティング

1. はじめに:外国人社員の「降格・減給」とビザ更新のデリケートな関係

行政書士しかま事務所の鹿間英樹です。当事務所では、企業の外国人雇用に関する在留資格(ビザ)申請支援を専門としており、多くの企業様から外国人社員の人事評価に関するご相談をいただいております。

企業経営において、従業員の人事評価は避けて通れない重要な業務です。しかし、外国人社員に対して「降格・減給」という人事措置を行う場合、日本人社員にはない大きな問題が潜んでいることをご存知でしょうか。それは、在留資格(ビザ)の更新という、その社員の日本での生活基盤を根底から揺るがす可能性のある問題です。

重要ポイント

「社内ルールに則った正当な評価だから問題ない」という安易な判断は非常に危険です。労働法上は適法な人事評価であっても、入管法の観点では在留資格の要件を満たさなくなる可能性があり、ビザの更新不許可という最悪の結果を招くリスクがあります。

このような事態は、企業にとっても社員にとっても大きな損失となります。企業は貴重な人材を失い、外国人社員は日本での生活基盤を失うことになりかねません。

本記事では、このデリケートな問題について、「労働法」と「入管法」の2つの法的視点から、企業が取るべき正しい対応と注意点を専門的に解説いたします。

2. 第一の壁:「労働法」が求める適法な人事評価と降格・減給

まず、国籍を問わず全ての労働者に適用される労働法上のルールを確認しておきましょう。外国人社員であっても、日本で雇用される以上、日本の労働関係法令が適用されます。

降格に関する法的要件

降格は、労働契約の重要な変更にあたるため、以下の要件を満たす必要があります

  • 就業規則等に根拠があること:降格に関する規定が就業規則に明記されていること
  • 合理的な理由があること:職務能力不足、業績不振等の客観的で合理的な理由
  • 権利濫用にあたらないこと:処分が重すぎないか、手続きが適正かなど

減給に関する法的制限

減給については、その性質によって適用される法的制限が異なります

懲戒処分としての減給(労働基準法第91条)

  • 1回の減給額:平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
  • 総額の上限:1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない

人事評価に基づく減給の場合は、就業規則等での明確な定めと、原則として本人の同意が必要となります。

重要ポイント

これらの労働法上のルールを遵守していることが、入管への説明の大前提となります。労働法違反の状態では、入管での説明以前の問題となってしまいます。

3. 第二の壁:「入管法」が求める在留資格要件の維持

労働法上適法な降格・減給であっても、それだけでは十分ではありません。外国人社員が在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国ビザ)を維持し続けるためには、入管法上の在留資格の要件を満たし続ける必要があります。

技人国ビザの主要な要件

① 在留資格該当性

従事する業務が「理学、工学その他の自然科学の分野」「法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野」「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」に該当し、専門的・技術的であること。

② 独立生計要件

安定した収入に基づき、独立した生計を営めること。扶養家族がいる場合は、その生活も含めて安定していることが求められます。

③ 均等待遇

日本人が従事する場合と同等額以上の報酬であること。不当な差別的扱いを受けていないことが重要です。

ここが重要

降格・減給によって、これらの要件のいずれかを満たさなくなった場合、労働法上は適法であっても、ビザの更新は困難になります。特に、職務内容の専門性や報酬額の変化には細心の注意が必要です。

4. 【要注意】ビザ更新審査で入管が懸念する3つのポイント

出入国在留管理庁がビザ更新審査において、降格・減給のある外国人社員について特に注視するポイントをご説明します。

① 「在留資格該当性」の喪失

降格によって、担当業務が専門的なものから単純労働や補助的業務に変わってしまっていないでしょうか?

  • 技術職から清掃・梱包等の単純作業への変更
  • 管理職から現場作業員への変更
  • 専門性を要さない補助的業務のみへの変更

入管は、職務内容の専門性維持を最も厳しく審査します。

② 「独立生計要件」への懸念

減給によって、安定した生活が困難になっていないでしょうか?

  • 収入が生活保護基準を下回る状況
  • 扶養家族の生活に支障をきたす収入水準
  • 住居費等の基本的生活費の支払いが困難な状況

特に配偶者や子供がいる場合、より高い収入水準が求められます。

③ 「日本人との均等待遇」違反の疑い

外国人であることを理由とした不当な差別待遇ではないでしょうか?

  • 同等の職務・成績の日本人社員との処遇格差
  • 外国人のみを対象とした人件費削減
  • 合理的な評価基準なしの処遇変更

客観的で公平な評価基準の存在が重要です。

入管の視点

入管は、企業の業績悪化や経営上の都合を理由とした安易な人件費削減の対象として、外国人社員が不当な扱いを受けていないかを注視しています。特に、日本人社員は据え置きで外国人社員のみ処遇を下げるような対応は、重大な問題として扱われます。

5. 【実践】不許可リスクを回避するための企業の対応プラン

ここからは、降格・減給を検討する際の具体的な対応策をご説明します。事前の準備と事後の対応、両方が重要です。

ステップ1(実行前):降格・減給の合理性と客観性の担保

📋 公平で透明性のある人事評価制度の整備

  • 明確な評価基準の策定と周知
  • 国籍を問わない統一的な評価プロセス
  • 評価結果の客観的な記録と保管

💬 対象社員への十分な説明と改善機会の提供

  • 問題点の具体的な指摘と改善指導
  • 複数回の面談による改善機会の付与
  • 面談記録の詳細な保管

📖 就業規則や雇用契約書の整備

  • 評価に基づく処遇変更の可能性の明記
  • 降格・減給の手続きと基準の明文化
  • 外国人社員への十分な説明(必要に応じて母国語での説明も)

ステップ2(ビザ更新準備):入管への丁寧な説明責任を果たす

📊 客観的な証拠資料の準備

  • 人事評価シートとその評価基準
  • 面談記録と改善指導の経緯
  • 就業規則の該当箇所
  • 同等の日本人社員への対応実績

💼 職務内容の専門性の証明

  • 降格後・減給後の詳細な職務内容説明書の再作成
  • 技人国ビザの活動範囲内であることの具体的証明
  • 必要な専門知識・技能の明確化

💰 均等待遇の証明

  • 同等職務・役職の日本人社員の賃金水準との比較資料
  • 賃金規程等の社内規定
  • 減給後の報酬が不当でないことの説明

専門家からのアドバイス

これらの準備は、降格・減給の実行前から計画的に進めることが重要です。事後的な対応では、十分な説明資料の準備が困難になる場合があります。また、労働法に関する詳細なアドバイスについては、社会保険労務士との連携も有効です。

6. 更新の鍵を握る!「理由書」での戦略的な説明方法

ビザ更新申請において、降格・減給の経緯を説明する「理由書」の作成は非常に重要です。ここでの説明が、更新許可の可否を左右することも少なくありません。

理由書作成の基本方針

理由書では、客観性合理性将来性の3つの要素を明確に示すことが重要です。感情的な記述や曖昧な表現は避け、事実に基づいた論理的な説明を心がけてください。

記載すべき内容

  • • 降格・減給に至った客観的な経緯を時系列で説明
  • 合理的理由の具体的な説明
  • • 改善機会の提供と適正手続きの実施
  • • 減給後も独立生計要件を満たすことの証明
  • • 職務内容の専門性維持の説明
  • 今後の展望とポジティブな方向性

避けるべき表現

  • • 感情的で主観的な表現
  • • 「能力がない」等の人格否定的表現
  • • 根拠不明な曖昧な理由
  • • 外国人であることを示唆する表現
  • • 将来へのネガティブな見通し
  • 一方的で不公平な判断を示唆する内容

具体的な記載例

【会社業績悪化による場合の記載例】

「弊社は、〇〇年〇月期において前期比〇%の売上減少となり、経営状況の改善が急務となりました。この状況を受け、全役員が報酬を〇%削減し、管理職以上の社員についても一律〇%の減給措置を実施いたしました。〇〇様についても、この全社的な取り組みの一環として、〇〇年〇月より月額給与を〇万円から〇万円に変更いたしました。なお、減給後の報酬額は、同等の職務に従事する日本人社員と同水準であり、〇〇様の生活の安定に必要な水準を十分に維持しております。また、職務内容については従来と同様の専門性を要する業務に従事しており、〇〇様の専門知識と経験を活かした重要な業務を担当していただいております。」

理由書作成のポイント

理由書は、入管職員が状況を正確に理解できるよう、第三者の視点で客観的に記述することが重要です。また、添付資料との整合性を保ち、説明に矛盾がないよう注意してください。専門的な判断が必要な場合は、行政書士等の専門家にご相談いただくことをお勧めします。

7. まとめ:計画的な人事評価と丁寧な説明でリスクを管理

ここまで、外国人社員への降格・減給がビザ更新に与える影響と、企業が取るべき対応について詳しく解説してまいりました。

重要ポイントの再確認

1

二重の法的配慮が必要:労働法上の適法性確保と、入管法上の在留資格要件維持という、2つの異なる法的視点からの検討が不可欠です。

2

事前準備の重要性:客観的で公平な人事評価プロセスの構築と、十分な記録の保管が、後の説明責任を果たす基盤となります。

3

入管への戦略的説明:降格・減給の正当性を入管に理解してもらうための、論理的で説得力のある理由書の作成が重要です。

最終的な警告

安易な判断による降格・減給は、ビザ更新不許可という形で企業と社員双方に大きなダメージを与えるリスクがあります。「後で何とかなるだろう」という楽観的な判断は禁物です。

外国人社員の人事評価は、国内人材の管理とは異なる複雑な要素を含んでいます。しかし、適切な準備と対応により、企業の人事戦略と外国人社員のキャリア継続を両立させることは十分に可能です。

重要なのは、計画的な人事評価プロセスの構築と、ビザ更新時の丁寧な説明準備です。これにより、企業は適正な人事管理を行いながら、貴重な外国人人材との長期的な関係を維持することができます。

企業の皆様へ

外国人社員の人事評価でお悩みの際は、労働法と入管法の両方に精通した専門家にご相談いただくことをお勧めします。早期の相談により、リスクを最小限に抑えた適切な対応策を講じることができます。

行政書士しかま事務所の外国人労務・ビザコンサルティング

当事務所の専門性

  • 外国人雇用における人事労務問題と在留資格問題を一体として捉えた総合的サポート
  • 労働法と入管法の両方に精通した専門的アドバイス
  • 企業のコンプライアンス確保と円滑な業務運営の両立支援

具体的なサポート内容

  • 外国人社員の人事評価制度に関する助言
  • 降格・減給に伴うビザ更新への影響診断
  • 入管を納得させるための理由書・説明資料の作成支援
  • ビザ更新申請の全面的サポート

こんな企業様からのご相談をお待ちしています

  • • パフォーマンスに課題のある外国人社員の処遇を相談したい
  • • 減給後のビザ更新手続きを確実に進めたい
  • • 外国人雇用の人事制度を見直したい
  • • 労働法と入管法の両面から適切な助言がほしい

外国人社員との健全な関係を築き、ビザのリスクを管理する。
貴社の人事戦略を法務面からサポートします。

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本記事の情報は2025年6月22日時点の法令・運用に基づいています。法改正等により内容が変更される場合がありますので、個別のケースについては必ず最新の法令・運用をご確認いただくか、専門家にご相談ください。本記事の内容によって生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。

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