配偶者ビザで離婚したらどうなる?在留資格を守るために今できること

配偶者ビザで離婚したらどうなる?在留資格を守るために今できること | 行政書士しかま事務所

はじめに

こんにちは、行政書士しかま事務所の鹿間英樹です。当事務所では、外国人の方の在留資格(ビザ)申請や更新、変更などのサポートを専門にしています。

今回は、「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の在留資格(いわゆる「配偶者ビザ」)をお持ちの方が、離婚した場合にどのような法的影響があるのか、どのような選択肢があるのかについて、専門家の立場から詳しく解説いたします。

離婚は誰にとっても辛い経験ですが、外国人の方にとっては在留資格という生活の基盤にも関わる問題となります。この記事を通じて、少しでも不安を軽減し、適切な対応策を見つける助けになればと思います。

この記事でわかること

配偶者ビザと離婚の法的関係性
離婚後に必ず行うべき法的手続き
離婚後も日本に滞在するための具体的な選択肢と条件
在留資格を守るために今から準備できること

配偶者ビザとは?離婚による法的影響

配偶者ビザの法的性質

「配偶者ビザ」とは一般的な呼称であり、正確には以下の2種類の在留資格を指します

  • 「日本人の配偶者等」:日本人と結婚している外国人、または日本人の実子である外国人に与えられる在留資格
  • 「永住者の配偶者等」:永住者と結婚している外国人、または永住者の実子である外国人に与えられる在留資格

これらの在留資格は、出入国管理及び難民認定法(入管法)別表第二に規定されており、日本での活動に制限がなく、就労も自由に行える特徴があります。

重要なのは、これらの在留資格が「配偶者である地位」に基づいて付与されているという点です。つまり、その法的基盤は婚姻関係にあります。

[法的根拠]出入国管理及び難民認定法 別表第二

離婚による法的影響とリスク

離婚すると、配偶者ビザの前提となる「配偶者としての地位」が失われます。これにより、以下の法的影響が生じます

項目影響・リスク法的根拠
在留期間中の地位在留期間満了までは即時の影響なし(自動的に在留資格が取り消されるわけではない)出入国管理及び難民認定法第22条の4
更新への影響原則として同じ在留資格での更新は困難になる出入国管理及び難民認定法第21条
在留資格取消リスク配偶者としての活動を6ヶ月以上行わない場合、在留資格が取り消される可能性出入国管理及び難民認定法第22条の4第1項第7号

【実務上の注意点】

離婚後、何もせずに在留期間満了日を迎えると「オーバーステイ(不法滞在)」となり、強制退去の対象となります。離婚が成立した場合は、在留期間満了を待たずに、速やかに次の在留資格への変更申請を検討する必要があります。

別居中の法的リスク

離婚前の別居状態においても、「配偶者としての活動を継続して6ヶ月以上行わないで在留している」と判断されれば、在留資格取消しの対象となる可能性があります。

ただし、実務上は以下のような「正当な理由」がある場合、取消しを免れる場合があります

  • DVから避難している場合
  • 調停や裁判による離婚手続き中である場合
  • 相手方の行方不明で離婚手続きが進められない場合 など

[法的根拠]出入国管理及び難民認定法第22条の4第1項第7号及び第22条の4第2項

離婚後に【必ず】行うべき法的手続き

「配偶者に関する届出」の提出義務

離婚が成立した場合、外国人配偶者には「配偶者に関する届出」を14日以内に提出する法的義務があります。これは単なる任意の手続きではなく、入管法上の義務です。

届出の概要

書類名:「配偶者に関する届出書」(※地方出入国在留管理局の窓口または入管庁のウェブサイトで入手可能)
期限:離婚または配偶者との死別の日から14日以内
提出先:住居地を管轄する地方出入国在留管理局または出張所
必要書類:届出書、在留カード、離婚を証明する書類(離婚届受理証明書等)

【届出義務違反の罰則】

この届出を怠ると、入管法第71条の3第1号に基づき「20万円以下の罰金」に処される可能性があります。また、将来的な在留資格申請において「素行不良」と判断される材料ともなり得ます。

離婚が成立し、在留カードの更新時期が近い場合でも、この届出の提出は免除されません。また、届出自体は在留資格の変更や更新の申請とは別の手続きとなります。

住民票・世帯構成の変更手続き

離婚に伴い住所や世帯構成に変更がある場合は、お住まいの市区町村役場で住民票の異動手続きも必要です。このような基本的な行政手続きの履行も、将来の在留審査において「日本社会への適応性」を示す重要な要素となります。

[法的根拠]

・出入国管理及び難民認定法第19条の16(配偶者に関する届出)

・出入国管理及び難民認定法第71条の3第1号(罰則規定)

離婚後も日本に滞在するための法的選択肢

離婚後も日本での生活を継続したい場合、以下の選択肢が考えられます。それぞれの要件と審査のポイントを専門的観点から解説します。

1. 在留資格「定住者」への変更

「定住者」ビザは、配偶者ビザと同様に就労制限がなく、比較的自由な活動が認められる在留資格です。

「定住者」ビザ変更が認められる主なケース

日本人・永住者との間に子どもがおり、その子の親権を持っている場合
婚姻期間が相当期間(目安として3年以上)あり、日本社会に深く根ざした生活実態がある場合
配偶者のDVが原因で離婚した場合(被害証明等が必要)

審査においては以下の要素が総合的に考慮されます

  • 生計維持能力:安定した収入があるか(目安として月額20万円以上が望ましい)
  • 日本での生活基盤:滞在歴、日本語能力、地域社会との関わり
  • 離婚の経緯:離婚の原因が申請者にとって不利にならないか
  • 今後の生活計画:明確で現実的な将来設計があるか

必要書類(基本的なもの)

  • 在留資格変更許可申請書
  • 写真(縦4cm×横3cm)
  • パスポート・在留カード
  • 離婚証明書類(離婚届受理証明書等)
  • 収入・納税証明書(課税証明書、納税証明書、源泉徴収票等)
  • 詳細な理由書(日本在留希望理由、今後の生活計画等)
  • 住民票
  • 日本での生活実態を証明する書類(賃貸契約書、公共料金の支払い証明等)
  • 子どもがいる場合:子どもの出生証明書、親権を証明する書類等

【実務上のポイント】

「定住者」への変更は、単に書類を揃えれば認められるものではなく、それぞれのケースの特殊性や事情を丁寧に説明することが重要です。特に理由書の作成は専門的な知識と経験が必要な部分です。当事務所では、個別の事情に応じた説得力のある理由書作成のサポートを行っています。

2. 就労ビザ(技術・人文知識・国際業務等)への変更

就職先が決まっている場合、専門的な職業に就くことを前提に就労ビザへの変更も選択肢となります。

就労ビザ変更の主な要件

学歴要件:大学・専門学校で専攻した分野と関連する業務に就くこと(技人国の場合)
実務経験:専門分野での10年以上の実務経験(学歴要件を満たさない場合)
給与水準:同等の日本人と同等以上の報酬があること

特に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、翻訳者、通訳者、語学教師、IT技術者、経理・財務担当など、専門的な知識や技術を活かした職業に適用されます。

[法的根拠]出入国管理及び難民認定法別表第一の二「技術・人文知識・国際業務」に係る上陸審査基準(法務省告示)

3. その他の在留資格への変更

状況に応じて、以下の在留資格への変更も検討できます

在留資格主な要件特徴
経営・管理・事業所を確保していること
・事業計画の具体性
・500万円以上の資本金または2名以上の常勤職員雇用
自営業として日本で事業を営む場合
特定技能・特定産業分野の技能試験合格
・日本語能力試験N4以上
人手不足の特定産業(介護、建設、農業など)で就労
留学・教育機関からの入学許可
・経費支弁能力の証明
専門分野の勉強をしながら将来の就労ビザ取得の準備

【どの在留資格にも変更できない場合】

いずれの在留資格にも該当しない場合、残念ながら日本からの出国が必要になる可能性があります。その場合でも、母国で就労や留学の準備をして再度日本へ入国する道も検討できます。

在留特別許可の可能性

どの在留資格にも該当しない場合でも、特別な事情がある場合は「在留特別許可」が認められる可能性があります。特に、日本人の子どもの親である場合や、日本社会に特に貢献していると認められる場合などが該当します。ただし、これは例外的な措置であり、法務大臣の裁量による判断となります。

[法的根拠]出入国管理及び難民認定法第50条

在留資格を守るために「今できること」

離婚前や離婚直後から計画的に行動することで、在留資格の維持・変更の可能性を高めることができます。実務経験に基づき、特に重要な準備項目をご紹介します。

1. 証拠資料の計画的収集と保管

特に「定住者」ビザへの変更を希望する場合、日本での生活基盤を証明する資料が重要になります。

収集しておくべき主な資料

婚姻期間の証明:結婚証明書(婚姻届受理証明書)、古い在留カードのコピー
経済的基盤の証明:課税証明書・納税証明書(過去3年分)、源泉徴収票、預金通帳のコピー
生活実態の証明:賃貸契約書、公共料金の支払い証明、健康保険・年金の加入証明
日本社会との関わり:地域活動の参加証明、ボランティア活動の証明、日本語能力試験の結果
離婚の経緯(必要に応じて):DV被害の証明(診断書、相談記録)、調停・裁判記録

【実務上のアドバイス】

特に納税証明書や課税証明書は、申請時に過去の状況を遡って取得することが難しい場合があります。婚姻中から定期的に取得・保管しておくことをお勧めします。

2. 安定した就労・収入の確保

どの在留資格の申請においても、経済的自立性の証明は極めて重要な審査ポイントです。

  • フルタイム雇用を維持する:パートタイムよりもフルタイム雇用が審査上有利になります
  • 雇用契約書の保管:正規雇用であることを証明する書類を保管しておきましょう
  • 職場からの推薦状:勤務先からの推薦状や実績評価があると有利です

実務上、月収20万円以上が一つの目安となります。収入が少ない場合は、預貯金など他の経済的基盤も併せて証明することが重要です。

3. 日本語能力の向上と証明

日本語能力は単なるコミュニケーション手段ではなく、日本社会への適応性を示す重要な指標として審査で評価されます。

  • 日本語能力試験(JLPT)受験:特にN3以上を取得しておくと有利です
  • 日本語学校の修了証明書:日本語学習歴の証明として保管しておきましょう
  • 職場や日常生活での日本語使用実績:上司や同僚からの証言も有効です

4. 「理由書」作成のための事前準備

在留資格変更申請の成否は、「理由書」の質に大きく左右されます。以下の点を日頃から整理しておきましょう。

理由書に盛り込むべき主なポイント

日本での生活歴:いつから日本に住み、どのような生活を送ってきたか
婚姻と離婚の経緯:結婚の経緯と離婚に至った理由(離婚原因が自分にない場合は特に重要)
日本に滞在を希望する理由:具体的かつ説得力のある理由(単に「好きだから」では不十分)
今後の具体的な生活計画:職業、住居、経済計画など
日本社会への貢献や適応の実績:地域活動、ボランティア、文化交流など

【実務上のアドバイス】

理由書は単なる事実の羅列ではなく、「なぜ日本での在留が認められるべきか」を論理的かつ感情に訴える形で示すことが重要です。専門家の支援を受けることで、審査官に響く理由書を作成できます。

5. コミュニティとの関係構築

地域社会との関わりや社会貢献活動は、日本社会への適応性を示す重要な要素です。

  • 町内会・自治会活動への参加
  • 地域イベントへのボランティア参加
  • PTA活動(子どもがいる場合)
  • 国際交流イベントへの参加や企画

これらの活動の証明として、写真、参加証明書、主催者からの推薦状なども保管しておくと良いでしょう。

「理由書」の重要性と専門的作成ポイント

在留資格変更許可申請、特に「定住者」への変更申請において、「理由書」は単なる添付書類ではなく、審査の核心部分を構成する極めて重要な書類です。

理由書が審査に与える影響

理由書は、申請者自身の言葉で日本に滞在する必要性や正当性を説明する唯一の機会です。形式的な書類では伝わらない、申請者固有の事情や人間性を伝える重要なツールとなります。

実務上効果的な理由書の構成例

  1. 自己紹介と現在の状況(氏名、国籍、現在の在留資格、日本での滞在歴など)
  2. 婚姻から離婚に至るまでの経緯(事実に基づいた客観的な説明)
  3. 日本での生活基盤と実績(職業、住居、地域との関わり、文化適応など)
  4. 日本に継続滞在を希望する具体的理由(仕事の継続性、生活基盤、人間関係など)
  5. 今後の具体的な生活計画(職業計画、経済計画、社会貢献計画など)
  6. 結び(審査への感謝と前向きな決意表明)

効果的な理由書作成のポイント

当事務所での豊富な申請サポート経験から、効果的な理由書作成のポイントをお伝えします。

  • 事実に基づく誠実な記述:虚偽の内容は記載せず、事実に基づいた誠実な内容にすること
  • 具体性の重視:抽象的な表現ではなく、具体的なエピソードや数字を盛り込むこと
  • 論理的構成:読み手(審査官)が理解しやすいよう、論理的な構成と適切な段落分けを行うこと
  • 日本社会への貢献強調:単に「日本が好き」ではなく、日本社会にどのように貢献できるかを示すこと
  • 離婚原因の適切な説明:離婚原因が自分にない場合はその点を客観的に説明(相手を過度に非難せず)
  • 証拠書類との整合性:理由書の内容と提出する証拠書類が一致していること

【実務上のアドバイス】

理由書は手書きでも印刷でも構いませんが、手書きの場合は丁寧な文字で、印刷の場合は署名を忘れないようにしましょう。また、日本語での作成が原則ですが、日本語能力に不安がある場合は母国語版も添付し、翻訳者の署名を入れることをお勧めします。

理由書は単なる形式的な書類ではなく、申請者の人生や将来に関わる重要な書類です。専門家のサポートを受けることで、より効果的な理由書を作成することができます。

まとめ:離婚後の在留資格を守るための法的ステップ

離婚は人生の大きな転機ですが、適切な法的手続きと準備を行うことで、在留資格を維持し日本での生活を続ける可能性を高めることができます。

重要なポイントの要約

14日以内の届出義務:離婚後は入管への「配偶者に関する届出」が法的に義務付けられています
在留期間満了前の対応:在留期間満了を待たずに、速やかに新たな在留資格への変更を検討しましょう
選択肢の検討:定住者ビザ、就労ビザなど、状況に応じた最適な在留資格を検討しましょう
証拠資料の収集:日本での生活基盤を証明する資料を計画的に収集・保管しましょう
説得力ある理由書:申請の核心となる理由書は、具体的かつ説得力のある内容で作成しましょう

離婚後の在留資格問題は、ケースバイケースで状況が大きく異なります。一般的な情報を参考にしつつも、ご自身の状況に合わせた専門家のアドバイスを早めに受けることをお勧めします。

【専門家からのアドバイス】

在留資格手続きは、専門知識と経験が必要な分野です。特に離婚という複雑な状況においては、早期の専門家相談が問題解決の鍵となります。離婚を検討し始めた段階、または離婚直後の早い時期にご相談いただくことで、より効果的な対応が可能になります。

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